「単年度のプライマリーバランス(PB)という考え方は取り下げる」──。
2025年11月7日、高市早苗首相が就任後初めて臨んだ衆議院予算委員会。台湾有事をめぐる発言が波紋を広げたが、財政でも大きな方針転換を示していた。
PB、すなわち国と地方の基礎的財政収支(税収から国債の利払いを除く政策経費を差し引いた収支)は赤字が続いており、政府は01年以来、黒字化を目標としてきた。PBが黒字であれば行政サービスを税収で賄えている状態で、公的債務の返済原資ができる。政府がPB黒字化を目標に掲げ続けることには、財政規律を保つ姿勢を市場に示し、信認を維持する意味合いがあった。
ところが、「責任ある積極財政」を掲げる高市首相は、機動的な財政出動を可能にするため、達成状況の確認を単年度ではなく数年単位で行う考えを示した。財政出動をして経済を成長させれば税収が増え、財政健全化も進むと描く。
こうしたスタンスを積極的に発信するのが、高市政権下で会議体に新たに顔を連ねた有識者たちだ。経済財政諮問会議に入った前日銀副総裁の若田部昌澄早稲田大学教授ら「リフレ派」と称される人々で、財政拡張と金融緩和維持を主張。需要拡大を図り需要超過を引き起こせば、供給拡大に向け生産性向上などが図られ、経済が拡大すると論じる。
円安で改善した指標
財政拡張しつつ“責任”を担保する指標として、高市政権はPBの代わりに公的総債務の対名目GDP比を挙げる。インフレ下で名目GDPが膨らむ一方、金利がまだ低いため値は下がっており、財政拡張の余地があるというわけだ。
さらに総債務の代わりに純債務を重視する声も積極財政派では高まっている。総債務から総資産を差し引いた純債務で見た比率は20年以降、より改善しているからだ。




















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