「12歳でひとり暮らし」「妹を海に突き落とす」…父母の喧嘩が日常茶飯事だった毒親家庭で育った兄妹、「大好きなのに音信不通」の哀しい"現実"
それに対し、私はこんなふうに答えた。
「いつもは優しいんよ。今日は先生がおるけえ恥ずかしいんじゃわ」
本当はいつも置き去りにされているのだが、正直に話すと兄が怒られてしまうと思った。とっさに嘘をつき、笑って返事をした。
学校が分かれて以降、兄は妹の存在を隠し続けた
兄はいつでも筆者を遠ざけていた。
「俺に妹なんかおらんことにしとる」
「話しかけんなや」
「近寄るな」
こんな言葉を吐かれ続けていたし、決していいところばかりではなかった。筆者は祖父の仕事の手伝いで船に乗り込もうとしたとき、高さのある桟橋から海に突き落とされたことがある。田舎者特有の身体能力でロープに捕まり濡れずに無傷で生還したが、一歩間違えば大怪我していたはずだ。それくらいのことをしても悪びれないほど、兄の中で私は嫌われていたのだろう。
それでも、筆者は兄が好きだった。
プロ野球チップスについていたカードを集めていた兄。あんな小さなポテトチップスなんて、兄ならひと口で食べられただろうに、「ゴミじゃけえやる」なんて言いながら中身が入ったままの袋をくれた。
iPodに音楽を入れてくれた兄。当時の筆者は、流行りのドラマの主題歌かドラえもんの歌くらいしか歌えなかった。学校では合唱曲が流行っていて、休憩時間はみんなで無駄にハミングしていたので、流行りの曲もよく知らなかったほどだ。そんな妹とは違い、兄はひとりで船に乗ってCDを買ってきていた。
人生で一度もCDを買ったことのなかった筆者にとって、兄が突然大人になったような衝撃を受けた。田舎者の筆者にとって、おしゃれな人が多いCD屋さんは入るのに勇気が必要だったのだ。
そんな兄が買ってきたGReeeeN(現:GRe4N BOYZ)の「キセキ」や湘南乃風の「純恋歌」だけを登録してくれた。誰に教えられたわけでもないのに、パソコンでの同期作業もこなす兄がただただかっこよく見えた。そんなiPodのおかげで、船に乗らないとどこにも行けないような田舎者でも、「キセキ」と「純恋歌」だけは歌えるようになった。



















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