画面には、早朝の北中学校の三学年の下駄箱が映されている。
おそらくは上級生の一人に仕込んだという、イケナイ端末の映像だ。
上級生五人は、順番に下駄箱から上履きを取り出し、順番に上履きへ足を入れ、順番にイテッともらし、ぶつり、映像は途切れた。
*
浩一はその日も、学校帰りに朝日堂書店へ向かった。
万引きは根絶されたし、きっと売上も回復するだろう。来月からは夏休みも始まるし、課題図書や自由研究に使う本なども売れるだろう。
朝日堂書店の入口には貼紙が…
入口の自動ドアには、一枚の貼紙があった。
──朝日堂書店は、今月末をもって閉店いたします。1988年4月の開業以来、多くのお客様にご愛顧いただき誠にありがとうございました。
慌てて店内に入り、親父に事情を訊く。万引きはなくなっても、やはり今の書籍の売上で店を続けることは難しいという。
親父は閉店をもって書店員からも引退する。それを聞いて浩一は肩を落とした。
「でもな坊主、捨てる神あれば、拾う神もありってな。先日、市の職員がやってきてな。都市開発の一環で、老舗でもある朝日堂の名前を使って“朝日堂ブックセンター”なる商業施設をロードサイドに造りたいっていうんだよ。さすがに無書店市町村ってのは、自治体としても避けたいみたいだな。オープンは三年後の予定だけど、パン屋とか、美容院とか、ペットサロンとか、いろんな店が入った複合商業施設になるみたいだぜ。うちの店頭に錆びたブリキ看板があるだろ。あれもモニュメントとして、施設内にディスプレイしてくれるっていうしさ」
浩一はそれを聞いて、柄にもなく跳び上がりそうになった。
「じゃあ僕は中学校を卒業したら、その店でアルバイトをして、将来は朝日堂の書店員になるよ」
「へぇ、じゃあ坊主は俺の後釜になるかもしれんわけか。ビジネスパートナーってわけだな。それなら俺の名刺を渡しておかないとな」
親父は抽斗(ひきだし)から名刺を取り出し、こちらへ差し出してきた。名刺には朝日堂書店、店主、萩野幸助と記されている。
浩一がその名刺を取ると、違う、と親父に一喝された。
「名刺ってのはな、自分の胸より高い位置で、両手で受け取るもんだ」
言われた通り、ちょうど賞状を受け取るように、両手で名刺を手にする。自分の名刺はまだないので、交換はできない。
だから浩一は、いつか自分の名刺を親父に渡したいと思った。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら


















無料会員登録はこちら
ログインはこちら