弥太郎君は、チャットでやり取りしたときとまるで雰囲気が違う。
威圧的でありながら冷静かつ冷淡で、感情が少しも読み取れない。画面越しとはいえ浩一は身震いした。
速水先輩はおそらくは反論しようと唇を開いたが、弥太郎君は有無を言わせず腕を引いて書店へ連れ戻す。五人の取り巻きはおろおろするばかりだ。
弥太郎君が親父に事情を話す。親父は驚いたような顔で、弥太郎君と、速水先輩とを交互に見た。三人はレジ奥の事務室へと入っていく。
「もう観念せいや、ぜんぶ分かってるんやぞ。鞄から盗んだもんだせや」
速水先輩は渋い顔をしたのちに、鞄へ手を入れた。鞄からは、新品の漫画本が三冊出てきた。
親父はその三冊の漫画本を見て、怒るというよりは、どことなく哀しそうな顔をした。一方で弥太郎君は淡々と詰めていく。
「あんなぁ、おまえらは面白半分でやってんのかもしれんけどな、書店側は生活かかってるんやぞ。おまえが盗んだ一冊のために、書店は十冊は売らんと利益がでぇへんのや、分かってんのか? あとな、万引きは立派な犯罪や。十年以下の懲役、五十万以下の罰金。おまえ中三か? 誕生日きとるんか? ほんなら刑事責任に問えるな。警察に通報したら、留置場の檻にぶち込まれるかもしれんな。そのあとは家庭裁判所で少年審判や。おまえどうせ余罪もあるんやろ。悪質やし、少年院送りになるかもしれんな。中三で人生おしまいや。まぁ、自業自得やな」
詰められた速水先輩は顔面蒼白に
このころになると、速水先輩は顔面蒼白になっていた。落ち着きなく瞳を動かして、不安げにもらす。
「あの、警察だけは勘弁してもらえませんか?」
「阿呆か、おまえは犯罪をしたんやから、犯罪者や。犯罪者の面倒みるのは親でも教師でもなく、警察や。ごめんで済んだら警察いらんわ」
「その、実はスポーツ推薦で進学する予定なんです……。警察沙汰になって学校に連絡がいくと、推薦が使えなくなっちゃうかも……」
パン、頬を平手打ちする軽やかな音が事務室に響いた。
「ワレの推薦の都合なんて知ったこっちゃないわボケ! なんで万引きしよったワレの都合を聞かなきゃならんのや! ワレは本屋の都合を考えずに、てめぇの都合で万引きしたんやろ! それで推薦なくなるんなら、自業自得や阿呆が!」
そこまで詰められて、速水先輩は頬を押さえて泣きべそをかき始めた。もう彼に上級生グループのリーダーとしての威厳はない。
と、弥太郎君は、おそらくはマイクへ口元を近づけて囁いた。
──成敗B、執行や。
その台詞が合図だった。


















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