「今も心に残る空虚さ。でもひとりに戻っただけ」——。61歳で旅立った10歳年上の夫《前へ進むための"ひとり暮らし"》再出発の部屋

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住み替えをしようと思ったのはひょんなきっかけからだった。夫を看取った後、日々の手続きに追われていたころに、息抜きに近所の友人と食事をした。

「その友人は保険関係の仕事をしていたので、夫の死後入って来るお金の整理についての話になりました。夫が亡くなったのは61歳。彼が前社を早期退職した際にまだ受け取っていなかった退職金の一部であったり、生命保険をかけていたりしたこともあって、まとまったお金が入ってくることが分かったんです。

そのときぽつりとその人が『私だったらマンションを買うかな』と言ったんです。その人は“持ち家をキープして不動産投資もできる”という意味だったんですが、私はその一言で『マンションを買う選択肢もあるんだ』って思って。むしろ自分のために分譲マンションを買って、戸建てから住み替えることにしたんです」

夫が集めていた器
夫が集めていた器は、友人に形見分けして量を大幅に減らした(撮影:今井 康一)

「私だったらマンションを買うかな」という友人のひと言が、悲しみに閉ざされた杉江さんの心を、次のステージへと導いた。

離婚と死別の違いとは

日本における男性の平均寿命は81歳だ。夫61歳、自身51歳での死別は想定外だっただろう。そんなにも早く伴侶の人生を看取り、その人の残した財産を整理するのは、どのような気持ちだったのだろうか。

「闘病中は夫の病に伴走することが、辛かったですね。いつ容体が急変するかも分からず、相手の苦しみになす術もなく……。

ただ、亡くなったときに思ったのは、“離婚”と“死別”って大分違うんだろうなということです。離婚は、何かしらお互いの相違があっての別れなのですが、死別は違います。

彼が亡くなった後、共通の友人、知人と疎遠になることもなく、共に夫を悼むことができました。また遺族年金というものもあって、それも有難いものだなと、思いがけず実感しました」

ゆったりとした時間を楽しんでいる堀江さん
今は新居でのゆったりとした時間を楽しんでいる(撮影:今井 康一)

10歳年上で、2度の離婚を経験した夫と共に過ごした14年の月日があるからこそ、その言葉には実感が宿っている。

目の奥に涙をにじませながらも、落ち着いて言葉を選ぶ杉江さんの姿には、自立して生きるひとりの人としての矜持と、夫婦として積み重ねた時間への恋しさや重みが、複雑に入り交じっているように感じられた。

コーヒーカップ
器は、自分もお気に入りのものだけを新居にもってきた(撮影:今井 康一)
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