「今も心に残る空虚さ。でもひとりに戻っただけ」——。61歳で旅立った10歳年上の夫《前へ進むための"ひとり暮らし"》再出発の部屋

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書斎スペース
杉江さんは編集・ライティングを生業にしてきた。亡き夫も編集者(撮影:今井 康一)
本棚
ふたりが集めた本が並ぶ本棚は、パーテーション代わりにもなっている。本棚で囲まれた内側は書斎スペースに(撮影:今井 康一)

「特に伝統工芸・地場産業などについては、夫がプロジェクトの中心を担っていたので、ひとりで続けていくことも現実的ではないような気がして」

会社の代表であった夫を失い、さぞかし心細いだろうと、傍からは想像される。しかし杉江さんは言った。

「ひとりに戻るだけです。私が夫と結婚したのは37歳。彼は47歳でした。それまで、私はひとり暮らしでしたから、約14年の結婚生活を経て“またひとりに戻った”という感覚なんです。心の痛みもありますけれど、私はまだ50代の初め。新しいこともできる年齢だと思っています」

子どものいない杉江さんは、病に倒れた夫を看取った後、心機一転、飼い猫とこの新居に移った。

猫のみろく
ひとり暮らしの相棒は猫のみろく。共に暮らす生き物の気配は、ひとり暮らしのリズムを整えてくれる(撮影:今井 康一)

夫婦の家は「ひとりの身体」に合わなかった

結婚時、杉江さんは初婚だったが夫は3回目の結婚だった。杉江さんが結婚生活を送った家は、前妻と夫が婚姻時に建てた3階建ての戸建てだったのだ。

「3階建てって、1階は寒くて3階は暑くて……。ひとりになったら急に暮らすのが負担に感じたんです」

それは構造上の問題であると同時に、「人の不在によって家と身体の距離が変わる」ということなのかもしれない。

「前の家は、リビング、書斎、ベッドルームが全部違う階にあったんです。ふたりで暮らしていたときは、それがお互いの間に程よい距離感をつくってくれたんですけれど、ひとり身には合わなかった。

それに、私はずっとインテリアについて書いてきたので、自分の好みに合ったテイストの家づくりをしてみたい気持ちはありました」

築50年、48㎡で物件価格は約4000万円、そこに1300万円程をかけて自分好みにリノベーションを施したのが、今の住まいだ。

パーテーションで区切ったオープンな間取り
パーテーションで区切ったオープンな間取りで、ベッドルームから本棚へもアクセスが容易(撮影:今井 康一)
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