健人は慌てふためき、サラリーマンの合間を縫って逃げるも、途中で誰かに足を掛けられた。
派手にアスファルトへ転がり、額と目頭が切れて血が流れる。
身体を起こして逃げようとするも、上から数人のサラリーマンがのしかかってきた。
うつぶせの状態で取り押さえられて、もう身動きが取れない。
「ちくしょう、放せよ! なんなんだよおまえらは! 正義マンかよ! サンライズタワーに詐欺集団のアジトがあるんだぞ!」
どうにか顔を持ち上げると、警備員がエントランス前でどこかへ電話をしていた。
「サンライズタワーで頭のおかしい奴が暴れています! 闇バイト強盗の一員かもしれません! すぐに来てください!」
*
警察署の聴取室
「田辺健人、三十歳、無職。オレオレ詐欺のアジトだと思って、サンライズタワーに無断で侵入しようとした。警備員を突き飛ばした──。君ね、下手したら住居不法侵入と暴行罪で逮捕されちゃうよ」
宇田は溜息をもらしつつ、聴取を続けた。警察署の聴取室は、なんとも無機質だった。簡素な事務机に、簡素なパイプ椅子、コンクリートの壁面。
宇田が持ってきた救急箱の中のマキロンで、顔の擦り傷の消毒をして、絆創膏を貼る。左足も捻挫したようで、鈍い痛みがあった。
「婆さんが騙されたのは気の毒だけどさ、もう半年も前のことで、しかも当人の婆さんは亡くなっているんだろう。二百万は大金だけど、正直、君の言う詐欺グループを逮捕できたとしても、金が返ってくる見込みはないよ。無職で金に困ってるのかもしれんけどさ、詐欺集団から金を取り戻すとか考えないで、真面目に働いたほうが亡くなった婆さんも喜ぶんじゃないか?」
健人は疲弊し切っていた。もう反論するだけの気力もない。宇田は溜息をもらす。



















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