
喉を締めて電話をかける
健人はノートパソコンに向かい、いくつかの下準備をした。その後に部屋の中央に立って、何度も発声練習をする。発声をよくする練習ではない。発声を悪くする練習だ。意図的に喉を締めて、しわがれた声を出す。
その声をスマホで録音して再生してみる。スピーカーからは、普段の自分の声とは似ても似つかない老人の声が聞こえてくる。たぶんいけるはずだ。
意を決して、あの番号に電話をかける。三度コール音が響いたのちに、スマホの向こう側で相手が応答した。
「はい、どちらさまでしょうか?」
やはり電話番号は生きている。健人の胸は一気に高鳴ったが、平静を装って、練習と同じ加減で喉を締める。
「あのぅ……、以前にそちらから、預貯金を保護する手続きが必要との電話があったんですが、その後どうなったのでしょうか……?」




















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