二人の若者は中嶋と簡単なやり取りをしたのちに、すぐに街路へと戻った。会話は聞き取れず、彼らが何者なのかは分からない。健人はまさかと思いつつも、彼らを尾行した。
若者二人は川口駅から京浜東北線の電車へ乗った。健人も同じ車両に乗り込み、二人の近くで監視を続ける。二人に会話はない。吊り革につかまって、車窓の風景を眺めている。
二人は王子駅で電車を降りると、駅近くの喫茶店へ入った。健人は二人組の斜向(はすむ)かいの席に座り、店主の親父にコーヒーを注文する。雑誌を読む振りをして聞き耳を立てた。
と、坊主頭で大柄の男が店内に入ってきて、おもむろに二人組と同じ席に座った。坊主の男は、鶴の刺繍の入ったスカジャンにスウェットというラフな格好だ。
坊主の男は半グレの首謀者?
妙な組み合わせだと思う。新卒みたいな若者二人と、極道崩れのような坊主の男──。男は煙草に火を点けると、右足を貧乏ゆすりしながら二人組と話し始めた。他の客の会話やBGMと混じり合って、肝心の内容がよく聞き取れない。
が、途中で坊主の男から“預貯金”“銀行カード”という言葉が聞こえ、健人は確信した。二人の新卒風の若者は、やはり受け子だ。きっと闇バイトにでも応募したに違いない。そして坊主の男は、その闇バイトや特殊詐欺を統括する、半グレの首謀者だ。
坊主の男は吸いかけの煙草を灰皿へ押しつけると、コーヒーも飲まずに店を出ていった。健人は店主の親父を押し退(の)けて店を出る。つかず離れずの距離で、坊主の男を尾行する。うまくすれば、詐欺集団のアジトを突き止められるかもしれない。
坊主の男は喫茶店から歩いて数分の距離にある、藍色のマンションへ入っていった。駅周辺で一際目を引く、三十階はありそうな高層マンションだ。エントランス脇の銀色のプレートには“サンライズタワー”と記されている。
エントランスはカードキー式のオートロックなので、健人はそれ以上先へは進めない。坊主の男はガラスの自動扉の向こう側で、エレベーターへと乗り込んでいった。
健人は再び喫茶店へと駆ける。喫茶店内にもう二人の若者の姿はなく、店員が飲み終えたグラスの片づけを始めていた。街路へ出て辺りを見回すも、彼らは雑踏のどこかに紛れてしまっている。



















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