男はエントランス脇の端末にカードキーを差し込み、オートロックを解除した。ガラスの自動ドアが左右に開き、男はその先へと進む。次の瞬間、健人はかつてのキセルの要領で一気に男と距離を詰めた。
そこで何者かに、背後からぐいと肩をつかまれた。
まさか尾行がバレていた? 俺は泳がされていた? 背後にいるのが半グレの仲間なら、俺は挟み撃ちにされた?
振り返るとそこに立っていたのは、中年のマンション警備員だった。警備員は八の字眉の間に皺を寄せて言う。
マンション警備員に疑われ…
「おたく、さっきからそのへんで、入口の様子を窺うようにうろうろしてたけど、ここのマンションの住人さん?」
健人は前方を見る。自動ドアが閉まり、坊主の男はエレベーターへと歩いていく。振り返ると、警備員はすでに完全に不審者を見る目をしていた。
「カードキー、見せてくれる?」
健人は再び前方を見る。坊主の男はちらりとだけこちらを見て、どこか迷惑そうな顔を浮かべつつ、エレベーターへと消えた。一方で背後の警備員は、やや語気を強めて言う。
「今さ、物騒な事件とか多いでしょ。別に君を疑ってるわけじゃないけどさ、マンションの居住者だって証拠、見せてくれる?」
健人は肩にのせられたままの警備員の腕を、強引に振り払った。警備員は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに警備をする人間の瞳になり、逃げようとする健人の前に立ちはだかる。
捕まれば面倒なことになる。健人は咄嗟に警備員を突き飛ばし、街路へと駆けた。背後で警備員が怒号を発する。騒ぎを聞いた通行人たちが、一斉に健人を見る。街路は帰宅時のサラリーマンで溢れていた。
「おい、なんか警備員が騒いでるぞ!」
「泥棒か?」
「あの金髪の若いやつだ」
「捕まえろ!」



















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