「家族でさえも、目が合うことが怖くて…」Netflix『匿名の恋人たち』で話題の「視線恐怖症」、3年間引きこもったボクサーが明かす"絶望と希望"

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小川選手の場合、「視線恐怖症」を発症するまでに次のような“負の連鎖”があった。まず、レジでどうしていいかわからない場面から「赤面恐怖症」を発症。極度の緊張で頬が赤くなる症状だ。続いて、その赤面を見られたくない「他者視線恐怖症」へ。やむをえずスーパーを辞め、通信高校に入り直すことを決めて電車に乗ると、今度は「脇見恐怖症」が顔を出す。

「脇見恐怖症」は、視界の端に入ってくる人を異常に意識してしまう、あるいは誰かの視界に入ってしまうことを避けようとする症状だ。周囲を傷つけたくない、相手に嫌な思いをさせたくない──その思いが募り、「こんな自分を見て他人が不快にならないか」を過度に恐れることで現れるという。当然、不特定多数の目がある電車に乗ることはできなくなった。

思いやりの心が、自分に向けての攻撃の矛となってしまう──なんとも理不尽な症状が彼を襲う。優しさがあるからこそ追い詰められた小川さんだったが、この負の連鎖はまだ終わらなかった。

家族とも目を合わせられず、3年間引きこもりに

「そこからさらに『自己視線恐怖症』になりました。自分の目がその人を睨んでいるように見えないか、目つきまで気になってきてしまったんです。家族が相手でも怖くて、目を合わせられなくなりました。『脇見恐怖症』で電車に乗れないから、ひとりで通えるように自動車の免許を取ろうと教習所に行こうとしても、やっぱり“人の目”からは逃れられない。

やがて、「何から何までできない」という自己嫌悪で八方塞がりになってしまいました。その時はどん底でしたね。絶望感でいっぱいになっていました。いつしかスーパーやコンビニはおろか、玄関から一歩も出られなくなって……そこから3年間、引きこもり生活になってしまったのです」

──この日、玄関のドア一枚が、世界への厚みになった。

引きこもりの時間は、静かだが過酷だ。時計の針だけは正確に進むのに、心も身体も止まったまま。さらには……。

「ストレスで過食して、最終的に30キロも太ってしまったんです。そうなると『こんな姿、誰にも見られたくない。人を不快にさせてしまう』という思いがプラスされ、余計に外に出られなくなりました」

小川さん
今ではボクシングができるほどになったが、当時は部屋からすら出られなかった(写真:本人提供)
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