「家族でさえも、目が合うことが怖くて…」Netflix『匿名の恋人たち』で話題の「視線恐怖症」、3年間引きこもったボクサーが明かす"絶望と希望"
こうなると気持ちばかりが焦る。だがどうにもならない。当時の葛藤の様子は彼の公式YouTubeでも動画で見ることができる。「今日も予約していたのに、やっぱり行けませんでした……」。暗い夜の闇の中、そう語る彼の声色には、挫折の温度がそのまま残っている。
その姿を見れば、誰だって「夢はここで終わるのか」と思ってしまうだろう。だが、人生何が起こるかわからないものだ。小川選手の場合は、その転機は人の形をして現れることになる。それが、現在通うジムの会長とトレーナーだ。1カ月近くかかって、なんとか門を叩いたジムで、小川さんは彼らと出会った。
“寄り添う”優しさが、彼を強いボクサーに
精神疾患を抱える多くの人にとって、“理解者”の存在は酸素にも等しい。とはいえ、周囲が当人の苦しみを理解するのは難しいものだ。
例えば、励ますつもりの旅行や食事の誘いが、当事者にとっては重圧に変わることもある。「その気持ちは嬉しいのに、行かなきゃという気持ちがプレッシャーとなり、胸が苦しくなることもあるんです」と小川さん。善意の矢印が、期せずして心を窮屈にすることも十分に起こりうる。
だが、このジムの人々は違っていた。「わかった。どういう場面できついの?」。やっとの思いで見学に行き、「自分はこういう症状を抱えているが、ボクシングが強くなりたくて」と伝える小川さんに対し、会長たちは否定するでもなく、変に心配するそぶりを見せるでもなく、こう聞いたという。
この問いは、彼のこれまでの苦しみを、心を解かしてくれた。責めるためではなく、寄り添い、支えるための問いだったからだ。小川さんは、具体的な場面を挙げながら自分が向き合ってきた「きつさ」を伝えた。スタッフたちは、「できる限り工夫するから頑張ってみよう」と小川さんを受け入れた。その日から、ジム通いの日々が始まる。



















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