「家族でさえも、目が合うことが怖くて…」Netflix『匿名の恋人たち』で話題の「視線恐怖症」、3年間引きこもったボクサーが明かす"絶望と希望"

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インタビューのあいだ、彼は何度も「きつい」と言った。たった一語なのに重い。喉元で引っかかる石のように重い。

「他の人からしたら“何が?”って思われるかもしれないですけど……」と前置きしながらも、彼にとってその「きつい」には、発汗、動悸、皮膚感覚のざわめき、世界のピントが一瞬で失われる感じ──。病のすべてが閉じ込められている。「とにかく“きつい”としか言えない」。その言葉に、当事者だけは“本当の意味”で頷けるのだろう。

「優しさや配慮が裏目に出る」理不尽な病

彼を襲った症状は2016年頃、静かに、しかし確実に彼を侵食し始めた。小川選手は「実はもともと、人と馴染んだりコミュニケーションを取ったりするのが苦手だった」と明かしたうえで、淡々とこう語る。

「高校生活がうまくいかず中退して、その後はスーパーマーケットで働き始めたのですが、明るく『いらっしゃいませ』って接客ができなくて。したくても、当時の僕は心身が不安定で、笑顔がどうしても作れなかったんです。やがて『“この店員嫌だな”って思われているかもしれない……』。そう考え出してから、急に“誰かの視線”や“人目”が気になるようになりました」

そしてある日、発作のような症状が起きる。レジで突然パニックになったのだ。呼吸が浅くなり、視界が狭まり、頬が熱くなる。やむをえず病院の門を叩いた。そして医師に告げられたのは「社交性不安障害」。

「視線恐怖症」は、「社交性不安障害」の一種といわれ、対人恐怖の一類型として語られることが多い。特徴は、他人の目を直視できない、ただ「見られている気がする」だけで緊張や動悸が走る、人混みや教室・職場で強い不安に襲われる、自分がどう見られているかに過剰な焦点が合ってしまう──等々。

小川さん
小川選手は今も試合に向かうたびに周囲からの視線に恐怖を感じてしまうという(写真:本人提供)
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