改正高年齢者雇用安定法は、企業が労使協定で対象者を選別することを禁止。また、義務に違反した場合は企業名を公表する規定も設けられており、企業も無視はできない。その結果、もともと正社員として勤務していた人は、定年後も幅広く仕事を得るチャンスを手にすることになった。企業側は、むしろ負担を増やしているとの見方もできる。
実際、今回の調査でも、定年退職者の再雇用者の割合は、前回調査の2010年の15.3%から17.5%に増加している。また、定年前に関係会社やグループ会社に移る事例は、厚生労働省では明確に追跡し切れておらず、そのような人は、今回の統計では、「パートタイム労働者」としてカウントされている可能性が高い。そして、この「パートタイム労働者」の割合も、前回の57.6%から60.6%に増加している。
こうしたデータを総合してみると、結局のところ、元正社員の高年齢者の再雇用などが増えたことが、4割の大台に乗った大きな要因なのではないか、という実態が浮かび上がってくる。
ポジティブな非正規雇用が増えている
つまり、4年前と比較して「非正規」の割合が増加したことは確かだが、追いつめられた労働者がやむを得ず、というステレオタイプな「非正規」のイメージとは異なり、法によって企業に義務づけられた制度により、労働者にとってポジティブな「非正規」雇用が増加している可能性が高い。
「改正高年齢者雇用安定法が、非正規割合を押し上げた一つの原因と言えることは確かだ。昨今の景気の回復によって、65歳以上の就業割合は上昇傾向にあることを示している。メディアでは少し歪められた形で報道されているのではないか」(厚生労働省雇用・賃金福祉統計課 山口美春氏)
確かに、今回の調査結果は、前回と大きく異なる点もある。非正規を利用する理由のうち、「正社員を確保できない」という理由が、前回の17.8%から26.1%と大幅に上昇している。企業が正社員を確保する意欲は高いのに、人材が不足しているという現実もあるようだ。他方で、約30%の非正規社員が、正社員に変わりたいとの希望を持っている。この部分がマッチングすれば、高年齢者の非正規が増えた分を相殺してもよさそうだが、現実にはそうなっていない。
労働者側の代理人となって労働事件を多く扱う佐々木亮弁護士は、「全くの想像だが、たとえば、非正規社員として10年、15年働いていた労働者を、雇う側が積極的に正社員として迎え入れるのだろうか、という疑問がある。おそらく雇う側が正社員として雇い入れたいのはこうした属性の労働者ではないのだろう」と話す。長期の雇用を前提に考えると、企業のファーストチョイスになるのは、やはり20代。雇う側が求める正社員像と、正社員になりたいと願っている労働者の属性に、大きなズレが生じている。
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