「官製ベア」をやっても賃金が上がらない理由 格差は拡大し生活は苦しくなっている
賃上げは企業の中長期的な戦略に合わない
――安倍政権は「経済の好循環の実現」を掲げて、2年続けて大手企業にベースアップを要請し、"官製ベア"を実現しました。
しかし、毎月勤労統計調査(厚生労働省)で見ると、現金給与総額はリーマンショック前の水準よりも一段低い水準にとどまっています。
そもそも、企業はベースアップを実施したかったわけではない。経済産業省がベアの実施状況について、企業の実名入りの一覧表を公開するとしたので、ベアを行わざるを得なかった。社名が出れば、企業の評判にかかわり、採用活動にも影響が出てくる。非常に巧妙な作戦だ。本来、賃金の問題は厚生労働省の管轄なのに、経産省が乗り出したことからも、官邸と密接に結びついた非常に恣意的な政策であるといえる。
企業としては、いやいやながら実施させられたベアなので、人件費について他の部分でバランスをとって、総額を抑えることになる。定年を迎えた人の再雇用などで賃金を下げるとか、パートや契約社員の比率を上げるなどしている。その結果、統計を見ると、所定内給与がなかなか上がってこない。正社員に限っても、若年・中堅層以外では上げ幅は限られてくる。
――失業率が低下を続け足元で3.3〜3.4%と低い水準になっています。また、有効求人倍率が1倍を超えて高い水準となっています、こうしたことから、雇用が逼迫しており、次は非正社員の正社員化など、全体的な賃上げに結びつくと見るエコノミストもいます。
私は、まったく違うと思う。雇用の逼迫は限られた業界でしか起きていない。新規求人倍率が上がっているのは一部の業界だ。正社員の賃金をあげれば、結果的に非正規雇用の条件はますます悪くなる。
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