「官製ベア」をやっても賃金が上がらない理由 格差は拡大し生活は苦しくなっている
このところ、相次いで日本企業の海外企業に対するM&Aのニュースが出ているように、もはやどんな業態でも、海外に投資しないと成長しない。日本の人口動態を考えれば、国内の経済規模は大きくならないからだ。
国内事業の比率を下げざるを得ず、中長期的に見れば国内で必要な雇用は減っていく。国内で賃金が固定的に増えてしまうベアを実施するということは、企業戦略として矛盾している。年齢を問わず、実績主義で報酬が決められる方向にあるが、国内全体としては賃金が抑え込まれる方向にある。
――では、「需給ギャップが縮まって、賃金の上昇を伴いつつ物価も上昇していく」という状況にはない、ということでしょうか。
需給ギャップの試算は前提を仮置きで行う、極めて不安定なもの。日銀は0.1%としているが、予測機関・手法によって結果の数値も異なる。「プラス成長が続いて一定のレベルを超えていけば、需給ギャップは縮まっている」、ということがおぼろげに言える程度。そこから回帰分析して消費者物価指数が上がっていくはずだという主張は現実には成り立ちにくい。昨年からの原油価格の急激な動きで、物価が大きく振れている事実が、そのことを示している。需給ギャップや期待インフレ率でフィリップスカーブ(失業率とインフレ率の関係を示す)の形状が決まるというのは長期的な話だ。
グローバル化で労働市場の構造が変化
――日本銀行の黒田東彦総裁は「今はほぼ完全雇用の状況にある」と言っていますが。
完全雇用になったら、賃金も物価も上がるはず。完全雇用の水準は失業率が3%台前半ではなく、もっと低いところにあるのだろう。業種や職種別のミスマッチも拡大している。多くの人が我慢して今の職種に就いている可能性もある。「失業率が何%なら完全雇用」という言い方もフィクションのようなところがある。実際にはピンポイントでは言えない。
――米国でも雇用を巡る構造の変化が議論されていますね。
グローバル化で労働市場の構造自体が変わっているからだ。国内に限定された鎖国状態のような労働市場の需給で賃金が決まるという前提が、成り立たない。いまや通信回線を通じて業務を海外へアウトソーシングできる時代。海外生産を増やしたり、足りない分野だけ外国人労働者を雇ったりできるし、機械化も進んでいるので、ある時点でトリガーが働いて賃金がどんどん上がるという理論自体が機能しなくなっている。
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