安全保障法案の迷走で、成長戦略も骨抜きに ストラテジストの市川眞一氏に聞く(前編)
――今国会で、まさに安倍政権は発足以来の岐路に立っているという感じです。
国家安全保障の枠組みを変えるというテーマは、国にとって極めて重要ではあるが、国民には不人気な政策だ。政権運営へのダメージを最小限にするため、安倍晋三首相としては、なるべく国会で成立させることが課題といえる。今年9月の自民党総裁選では再選確実であり、その後、内閣改造や党役員人事で人心を一新し、年内の中国への公式訪問、ロシアのプーチン大統領の訪日でなどで成果をアピールし、支持率を回復して来年7月の参院選に臨みたいというのが基本的な戦略だろう。
憲法審査会の結果が大きな誤算
ところが、6月4日の衆議院憲法審査会で、与党自民党が推薦した参考人である早稲田大学の長谷部恭男教授が、現行憲法下における集団的自衛権の行使について、「憲法違反」との解釈を示したことは大きな誤算だった。安倍政権にとって大きな失敗だ。
安倍首相としては、憲法解釈をめぐる論議はすでに昨年秋の臨時国会、その後の総選挙で決着済みとの認識だったと見られる。今国会では、集団的自衛権の行使を含む新たな国家安全保障体制を実現するため、具体的な法整備として『国際平和支援法案』『平和安全法制整備法案』を提出し、もっぱらこれらの法案の審議に集中する予定だった。しかし、土俵の違う衆議院憲法審査会で、いわば振り出しに戻された形だ。
――2014年夏に、従来とは憲法解釈を変えることを閣議決定しましたが、やはり無理筋だったという感じがします。
一般的にはあまり意識されていないが、集団的自衛権行使に関する憲法解釈問題の根底には、現行憲法下において、違憲立法審査をどの機関が行うのか、という大きい問題がある。憲法によれば、違憲立法審査権は、もっぱら最高裁判所を頂点とする各級裁判所に与えられている。
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