安全保障法案の迷走で、成長戦略も骨抜きに ストラテジストの市川眞一氏に聞く(前編)

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いちかわ・しんいち 1963年東京生まれ。明治大学卒。 証券会社、運用会社のアナリスト、ファンドマネジャーを経て2009年より現職。小泉内閣で構造改革特区初代評価委員など、民主党政権にて事業仕分け評価者、内閣府規制・制度改革委員など、公職を歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(ともに新潮社)、『国際的マネーフローの研究』(共著、中央経済社)など。(撮影:今井康一)

ただし、日本の制度では、具体的な訴訟、権利の侵害の訴えがない限り、最高裁判所といえども違憲立法審査権を行使することはできない。付随的審査制度を採用し、憲法裁判所を置いていないからだ。

そこで、歴代内閣は、内閣法制局をあたかも中立・独立の違憲審査機関のように見せることで、その権威を利用して憲法の議論を乗り切ってきた。

今から思えば、2014年2月、安倍首相が内閣法制局の神話を崩し、普通の行政機関であることを示したことで、今回の議論が難しくなった。

民主党議員の質問に対し、安倍首相は、政府としての憲法判断の「最高責任者は私です」、国民の「審判を受けるのは法制局長官ではないんです」と答弁した。これは、制度的には全く正しい。関連する法律を読む限り、内閣法制局は、行政府の一機関に過ぎず、その主任の大臣は内閣総理大臣だからだ。

ただ、内閣法制局を普通の行政機関としたことで、その権威を利用して政治的に憲法判断問題を乗り切ることは困難になった。当時、ある憲法学者が「微妙なバランスが崩れたのかもしれない」と指摘していたが、今になって振り返れば卓見だったと言えるだろう。今後、改憲の議論においては、憲法裁判所の設置が重要な論点になるのかもしれない。

既得権益との対峙は難しくなった

それはともかく、安倍政権は、今、岐路に立たされた。結果として生じる懸念は、安全保障関連法案の審議が難航、内閣支持率が低下することだけではない。そのために、国論が分かれる経済政策については、思い切った政治的なリスクを採れない可能性があることだ。結果として、経済政策、つまりアベノミクスについても、停滞感が強まることが予想される。

今月末に発表される『日本再興戦略 改訂2015』は、産業競争力会議で示されたドラフトを見る限り、中身は具体性に欠けていた。新聞報道でも「小粒」と批判されていた。安倍政権には、例えば岩盤規制を打ち破るために既得権益と対峙する力が、当面は低下した状態となるのではないか。

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