安全保障法案の迷走で、成長戦略も骨抜きに ストラテジストの市川眞一氏に聞く(前編)
よい例がコーポレートガバナンスの問題だ。
昨年の日本再興戦略は、「日本の『稼ぐ力』を取り戻す」とした上で、コーポレートガバナンスの強化を打ち出し、公的、準公的資金の運用を含めた改革が取り上げられていた。日本版スチュワードシップ・コードに基づき、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、議決権行使をどうするか考え、場合によっては会社側の提案に反対するということだ。
その背景には、米国において、公的性質の強いCalPERS (カリフォルニア州職員退職年金基金)やTIAA-CREF(全米教職員年金・保険基金) が、積極的に議決権行使をすることで、企業のガバナンスに強い影響を与えてきた実例がある。日本にもそうした仕組みを導入し、企業価値を向上させるべきとの考え方は、以前から根強くあった。
理由は、日本の場合、年金などの運用機関の多くが、銀行系、証券系であるため、親会社と投資先企業との取引関係によって、機関投資家側が事業会社に対しあまり厳しい態度はとれなかったとの疑念があり、そうした中で、中立の公的、準公的機関投資家が思い切った議決権行使をすれば、他の投資家もそれに追随することができるだろうというものだ。
GPIFは物言う株主になれず
しかしながら、ここで考えておかなければならないのは、経団連(日本経済団体連合会)が、安倍政権の最大のサポーターの一つであることではないか。例えば賃上げについても、政労使合同会議の下、安倍政権が主に経団連へ要請、榊原定征経団連会長が協力するかたちで加盟企業に実行を働き掛けてきた。そうした蜜月関係にも関わらず、国の組織である独立行政法人が、財界主要企業の提案に対し「ROE(株主資本利益率)が低いから」と株主総会で反対票を投じることができるのか、これは政治的に見ると非常に難しいと言わざるを得ない。
経団連の加盟企業1314社のうち、812社が東証一部に上場、その時価総額はマーケット全体の80%を超えている。つまり、経団連は東証一部そのものと言っても過言ではない。国の機関がこれに物申すのは簡単なことではない。さらに、スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードは、あくまで紳士協定にとどまり、法的な拘束力はない。極めてシニカルな見方をすれば、企業が「中長期的にROEを向上させる」とのマントラを唱えていれば、議決権助言機関の助言がどうあろうと、機関投資家は、会社側提案に賛成できる仕組みともいえる。
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