安全保障法案の迷走で、成長戦略も骨抜きに ストラテジストの市川眞一氏に聞く(前編)

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――外国人投資家は、日本のコーポレートガバナンスが変わることに期待しているようです。

世界的に見て、欧米、新興国ともにリスクが高いなか、日本株は「ラストリゾート」に見えている。ただし、バリュエーションに割安感があるわけではなく、コーポレートガバナンスを材料にしない限り、これ以上買い上げる材料がないからだ。だが、今のバリュエーションを見ると、日本企業のガバナンスの変化によるROEの向上について、すでに過度の期待感を織り込んでいる可能性は否定できない。

株式持ち合い解消も政府が進めるのは困難

株式の持ち合い解消にも市場の期待が集まっているものの、同様に難しい課題だ。金融庁は推進する方向のようだが、政策として進めることについて、財界には反対論が根強いだろう。持ち合い解消は、最も有効な敵対的買収防衛策を失うことになりかねないからだ。

公的機関で肩代わりするとの見方もあった。例えば、銀行等保有株式取得機構の活用だ。ただし、その場合、政府保証債の発行が必要になる。財務省は、これ以上の公的債務の増加を容認しないだろう。日銀が資金を出す案も、損失が出た場合の責任を誰が負うのかが大きな課題となる。そもそも、これらの買い取り案は、コーポレートガバナンスを改善するどころか、公的部門を肥大化するものに他ならない。

コーポレートガバナンス・コードには、株式持ち合いについて、「政策投資は説明義務を伴う」と書いてあるものの、いけないとは書いていない。意見公募で寄せられた意見に対する有識者側からの回答を読むと、最後は企業の判断であり、定期的に中長期的なリスクと効果を検証し、株主に対してその内容を説明すれば、持ち合いは許されているのだ。

安倍政権は、財界の強い支持を受け、賃上げなどで財界との協力を重視している。国家安全保障で大きな政治的リスクを背負っているなかで、財界との関係を大きく悪化するような選択肢は採り得ないのではないか。

外国人投資家の多くは、国家安全保障政策でリスクを採るよりも、経済構造の改革こそ重要だと思っているようだ。だが、安倍首相にとっては、国家安全保障こそが、政治家としての本丸と見られる。つまり、安保・外交、そして憲法改正を実現するために、内閣総理大臣の重責を担っているわけだ。それらをやり遂げるには、長期政権が必要であり、景気が悪化して株価が下がれば、長期的に政権を維持することはできない。だからこそ、経済を重視しているのであり、経済政策は、手段であって目的ではないだろう。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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