「官製ベア」をやっても賃金が上がらない理由 格差は拡大し生活は苦しくなっている

拡大
縮小

――では、政府が圧力をかける形で大手企業にベアを強要すれば、かえって歪みが出ることになるのでしょうか。

その通り。人口減少を背景に日本経済の成長率が低下しており、アベノミクス実施の前も後も企業が置かれている状況は変わっていない。企業経営に介入しているから、かえって賃金体系が歪む。若手中堅社員に定期的にベアを付けることは将来の国内収益の展望とは矛盾している。その修正がどこかで入らざるを得ない。

格差は拡大し、生活は苦しくなっている

――そうすると、かえって所得格差は広がり、貧富の格差が広がるのではないでしょうか。

格差はすでに広がっている。厚生労働省が7月2日に発表した2014年の「国民生活基礎調査」では、生活意識が「たいへん苦しい」「やや苦しい」と回答した人の割合が62.4%で、2013年の59.9%から上昇し、生活はだんだん苦しくなっていることがわかる。調査は、昨年の1回目のベアの後に行われている。

年金支給額もマクロ経済スライドの実施で減額されている。2015年度の年金は本来、前年よりも2.3%増えるはずだったが、0.9%しか増えていない。一方で、東大日次物価指数(注:スーパーマーケットのPOSシステムを通じて日本全国300店舗、商品数20万点超について、日々の価格、日々の販売数量を収集し、それを原データとして作成した物価指数)を見ると食品を中心に前年比1%上昇しているので、資産を持っていない高齢者にとっては生活がそうとう厳しくなっている。生活保護世帯は21年連続で増えており、半分は高齢世帯となっている。

――それでは好循環どころではありませんね。

日銀は「所得から支出への好循環」などと言っているが、何を言っているのか、という感じ。設備投資はようやく増えたと言っても、国内では更新投資や省力化・合理化投資が中心だ。

名目賃金が伸び悩む中で、実質賃金も下がっている。食品などは、消費増税に便乗して容量を小さくするなどの実質値上げが流行してしまっている。チョコレートの箱など軒並み小さくなっていて、そうすると、消費者は一定の時間が経つと、プライベートブランドなど安い商品に流れていく。

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