「官製ベア」をやっても賃金が上がらない理由 格差は拡大し生活は苦しくなっている

拡大
縮小

しかも、その値上げの効果は、来年になると剥落する。「生鮮食品とエネルギーを除く」という物価指数を新指数にしようという話があるが、それなら、加工食品も除くべき。加工食品の価格上昇に頼って、「デフレ脱却」とか「インフレ目標達成」というのは、本末転倒でまったく意味がない。円安により輸入物価が上昇して貧しくなっているだけだ。

――好循環が実現しているという日銀や政府の説明は、国民の生活実感にあっていないようですね。

まさに生活実感に合わないことは間違っているというのが、エコノミストとしての私の信条なので、日銀の量的緩和政策でインフレ期待がジャンプアップするとか、需給ギャップが縮まり自動的に賃金と物価が上昇していくとかいうのは、デタラメな理屈だと思っている。だいたい日銀のアンケートでも、日銀が2%の物価目標を掲げていることをまったく知らないか、あるいはほとんど知らない人が7割いる。そんな状態で、日銀が目標を唱え続ければインフレ期待が高まる、というのはおかしな話だ。

需要不足の中で機能しない無理な政策

――黒田総裁はバーナンキ前FRB(米国連邦準備制度理事会)議長のコメントを引用して「量的効果は、現実には効果が認められるのだけれども、理論的には効果が説明できない」と言っています。

量的緩和それ自体に効果があるのではない。米国では量的緩和の結果、株価が上昇し、そのことが、家計金融資産に株価の占める比率が高い米国では資産効果として働いたということ。ただ、日本で同じことをしても、家計は株式をあまり保有していないので、ごく一部にしか効果が出ない。

多くの人にとって消費増税のマイナスの影響のほうがはるかに大きい。消費者庁の「物価モニター調査」7月調査でも54.5%の世帯が今後3カ月間に「支出を減らそうと思う」と答えている。モノの値上げや年金の抑制に直面して、萎縮している世帯の方が多い。

需要が不足している中で、物価を先に上げようという発想そのものが逆転しており、無理な政策。必需品である食料品の価格が上がることで、消費意欲が減退している。

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