「人の命がかかっている」伝説の万引きGメンが忘れられない"限界超えた母"の事件…犯罪の温床になっている"セルフレジ"不正防止の秘策も明かす

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1つは、20代半ばの頃に経験した、2歳と3歳の娘を連れた母親の事件です。

「千葉県の柏市にあるスーパーで、みすぼらしい格好をしたお母さんが、何度も子どもたちを試着室に出入りさせていたんです。おかしいな、と注意深く見ていると、案の定、真新しい服を着せたまま店を出たので声をかけました」(望月さん、以下同)

事務所に連れて行くと、母親は「すみません、間違えました」と泣きじゃくるばかり。子どもたちも「ママをいじめないで!」と叫びます。

1時間ほど泣き続けた母親に、望月さんは「あなたは悪いことをする人に見えない。泣きたかったら、涙が枯れるまで泣いたらいいですよ」と声をかけ、静かに待ったそうです。すると……。

望月さんの手
忘れられない事件を語る望月さんは、自然とその手に力を込めていました(撮影/今井康一)
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人の命を救う日、そして、奪ってしまう日

「公務員の夫がお金を家に入れてくれず、もう生活が限界だと。せめて死ぬときくらいは子どもに綺麗な服を着せてあげたい、と……。店を出たら、柏駅で飛び込み自殺をするつもりだった、と打ち明けてくれました」

半信半疑で夫の職場に連絡し、困惑した様子の夫に事情を話しました。望月さんが話す内容を聞くうち、“事実だ”と気づいた夫は、妻が部屋に残してきたと明かした遺書を持って、慌てて駆けつけました。そこには、彼女が語った通りの悲痛な叫びが綴られていたのです。

「『こんなにお前を追い詰めていて申し訳なかった』と謝るご主人と、限界を迎えていた奥さんの間に入って、なんとかご家族を取り持ちました。最後はみんな落ち着いた様子だったので、家に帰したんです。

その1週間後くらいですかね。家族4人で文明堂のカステラを持って、お店に挨拶に来てくれました。事件があった日は私のことを『ママをいじめた人』と見ていたお子さんが、『おじちゃん!』と駆け寄ってきてくれた。あの時のことは、今でも忘れられません。『命の恩人です。やり直してみます』というご夫婦の言葉が、この仕事の重みを教えてくれました」

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