《イチからわかる》中国の"シーレーン"確保で日本の物流が揺らぐ?商社の「インテリジェンス」部門で30年活躍したプロが解説

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先生 また、シーレーンは、米国のみならず世界中の国にとって重要です。特に、世界との貿易を拡大させている中国や新興国にとってはなおさらです。

陽菜中国も世界中のシーレーンに影響力を高めようとしている、ということでしょうか?

世界中で港湾の確保を進める中国

先生 はい。南シナ海はその代表例ですが、その他にも、世界中の港湾に中国系企業が出資を行い、そのネットワークを強化しています

陽菜 港湾に出資? 何かよいことがあるのでしょうか?

先生 もちろん、出資ですから、その港湾の運営から収益が見込めます。

ただ、それ以上に重要なのは、その港の運営を仕切ることで、例えば中国関連の船舶を優先するなどして、中国という国全体の物流コストの削減や効率化を図ることができるということです。ネットワークが拡大すれば、その効果はさらに大きくなります。

陽菜 なるほど。出資している企業だけでなく、国として大きなメリットがあるのですね。

先生 いざというときには、中国船は通す、敵対国の船は通さないといったことで、相手の国の貿易にも影響を与えることもできます

パナマ運河の出入り口にある複数の港にも中国系企業が出資していて、このことに対する危機感が、トランプ大統領の「パナマ運河を寄こせ」という発言につながったとも言われています。

陽菜 港湾って、誰でも自由に使えるもんだと思ってましたが、どこが保有しているかも重要なんですね。そして、この港湾ネットワークを中国は世界中に広げている、と。

先生 大きなところでは、ギリシャスリランカパキスタンペルータイアフリカのジブチなどの港に中国系企業が出資しています。

オーストラリアの北部にあるダーウィン港も、2015年に中国企業が地方政府から99年間のリース契約で運営権を取得しました。オーストラリア政府は、安全保障上の観点から、中国側に契約の解除を求めていますが、中国側は当然反発しています。

陽菜 そうなんですね。中国の港湾ネットワークがこんなに広がっているとはまったく想像もしていませんでした。もし米国が、周辺地域など、自国に関係するシーレーンだけに注力するようになれば、中国にとってはますます、海外のネットワークを拡大するチャンスになりますね

先生 中国も、自国から遠く離れたシーレーンを守れるほどの海軍力はありません。遠くの海は中国系企業による港湾ネットワークで、周辺の海は軍事力で、支配力を強めていくのだと思います。

陽菜 そうなると、何か起こった場合に、日本の船がいつも使っているルートや港を急に使えなくなったりするのでしょうか?

先生そのリスクは高まります。シーレーンを取り巻く状況が大きく変わると、特にこれまでシーレーン防衛を米国に頼っていた日本などの同盟国は、大きな影響を受けます。

ビジネスの面でも、常に世界のどこでも安全に輸送できるという前提が崩れます。そういった想定で、原材料や製品の調達や販売などの物流ルートを見直していく必要が出てくる可能性もあります。

陽菜 日本国内でも、物流って重要な問題と思ってましたが、これが世界となると、さらにこんなに話が複雑になるんですね。

先生 シーレーンの安全確保を含め、日本の防衛には米国の力が欠かせないという状況は大きく変わらないと思いますし、変えることも難しいです。ただ、どこまで米国に依存するかなどについては、議論の余地は大きいと思います

武居 秀典 国際情勢アナリスト

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たけい・ひでのり / Takei Hidenori

一橋大学卒業。三菱商事で主に調査・分析業務に従事。調査部長や北京現地法人社長を歴任。
ロンドン、ニューヨーク、北京などに計14年間駐在。
2023年同社退職後、企業向けアドバイザーや研修講師などを務める。

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