トヨタ自動車は13年3月期も為替リスクが利益を圧迫《ムーディーズの企業分析》
●コスト構造の調整に取り組むが改善には要時間
為替変動の影響を低減すべく、トヨタは海外生産を拡大してきた。昨年、トヨタの海外生産能力は主に米国、インド、タイ、アルゼンチンで合計26万台分増加。今年も、タイ、インド、ブラジル、中国でさらに合計26万台分の能力拡大を計画し、向こう数年間で、これらの国々およびインドネシアで一層の拡大を計画している。
しかし、大規模な海外生産への転換には、継続的な投資と時間が必要だ。たとえば、トヨタは10年9月にブラジルでの工場建設に着手したが、生産開始は今年後半を見込む。インドネシアでは昨年9月に第2工場を着工し13年初頭に生産開始。タイの第2工場は今年初着工、13年半ばに生産開始といった具合である。
トヨタの全世界での合計生産台数は11年3月期で734万台に上り、それに比べると海外生産能力は依然小さい。海外生産が拡大し、13年に計画している販売台数895万台を達成したとしても、国内生産比率は依然として30%を超える。トヨタは国内における雇用と製造技術の確保のため、国内生産台数300万台以上を維持するとしており、これは10年の国内生産台数330万台とほぼ同水準である。
トヨタは海外生産における部品の現地調達の拡大も図っている。とはいえ、進捗は緩やかだ。部品の採用には長い承認プロセスを経なければならず、サプライヤーはトヨタのサプライチェーン・マネジメント・システムを採用しなければならない。
部品の現地調達には一定の進展も見られる。米国生産の新型カムリでは、部品の現地調達比率をガソリン車で90%近くまで引き上げた。インド向けエティオスでも、部品現地調達比率(11年初頭で70%)を13年以降、90%近くに引き上げることを目標としている。さらに、海外市場向けのエンジンやトランスミッションの海外生産も拡大しており、そのためのコンパクトな生産ラインも採用している。
また、円高でコスト競争力を失う部品については、国内生産でも輸入部品の使用を増やしていく意向だ。トヨタはサプライヤーの代替や、既存サプライヤーへの海外工場建設要請を行っている。しかし、その効果が出るには時間がかかるだろう。
トヨタがサプライヤーに海外生産移転を要請すると、そのサプライヤーの収益に大きな波及効果が及ぶことがある。特に、工場建設のために十分な資本がない、小規模なサプライヤーでは影響が大きい。トヨタの強みの1つは、手の届く価格の高品質な製品を生産する能力であり、それは品質向上とコスト低減への不断の取り組みを続けるサプライヤーに支えられていた。そうした製品を開発・生産する能力に影響を与える可能性がある。
自動車の海外生産移転や部品の海外調達は、トヨタの国内工場の稼働率を低下させるおそれがあり、余剰となる生産能力を穴埋めするような手段をとらなければ、非効率につながりかねない。同社は年間300万台以上の国内生産を維持するとしており、国内での高い販売シェアを維持・向上しようとしている。しかし、成熟して縮小傾向にある市場環境を考慮すると、中期的に国内販売の水準をこれ以上引き上げるのは困難であろう。