「家庭でも職場でもない場所」が自分をラクにする。イギリス在住のベストセラー作家・ブレイディみかこさんが考える"他者とのつながり方"
――自分とは環境が違う女性に対して、どれだけ想像力や寛容さを持てるかですね。
当時の様子を映したドキュメンタリーとかを見ると、彼女たちにとって政治的な思想の違いは二の次で、大事だったのは、女性であることで生じる障壁を超えることだったんですよね。だから、左派も、保守派も、中道もみんなつながることができた。
また、この日の出来事を「ストライキ」じゃなく「女性の休日」って呼んだのも大きいです。ラディカルな団体の女性たちは「女性のゼネストだ」って主張したんですが、それは過激だという女性たちもいて。
結局、中道だった初老の女性が「言葉がよくないんじゃない? ストライキっていうから、まとまれないんでしょう? 女性の休日って呼んだらどうなの?」って言ったら、みんなそれに乗ったんですよね。「私たち、勝手に今日はお休みをいただきます」って感じで、ユーモアもありますしね。
――女性だからできた、まとまった、みたいなところもありそうです。
それもありますね。あれだけ大規模なストライキなのに誰か一人のカリスマティックなリーダーがいたわけじゃなくて、小さなグループ――普段はみんな別々でつながっているグループが、連合的に1つにまとまった。家父長制的なトップダウン式の組織のあり方を取らなかったんです。だからうまくいったのかもしれない。
実は、アイスランドのストライキの話は小説にしようと思っていて、今、資料などを集めているところなんです。
ブレイディみかこさんの“サードプレイス”
――小説ですか、楽しみにしています。最後になりますが、これから仕事以外でやってみたいこと、サードプレイス的なものはありますか?
大学生の息子が寮生活で子育てから解放されたから、旅行したいですね。南米とか。でも、ひょんなことから犬を飼い始めて、それどころじゃなくなってしまったんですよ。
――ひょんなことですか?
そう。いきなりわが家にやってきたんですよ。連れ合いが呼ぶから言ってみると、家のキッチンの前で白い犬が尻尾を振っていて。毛並みはきれいだけれど、首輪はしていない。役所に迷子になった犬を保護する部署があるので、そこに連絡して保護してもらい、マイクロチップから飼い主がわかったらしくて連絡を取ったらしいんですけど、期限の1週間を過ぎても迎えに来なかったそうで。
保護をしに係員が来たとき、連れ合いが「飼い主が迎えに来なかったら、うちでもらいますよ」って、調子のいいこと言っちゃったんですよ(笑)。それで本当にうちに来ることになりました。2カ月ぐらい前の話ですかね。だから旅行はしばらくお預けです。
ライター・コラムニスト。1996年より英国在住。2017年、『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)で第16回新潮ドキュメント賞受賞。19年、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)で第73回毎日出版文化賞特別賞受賞、第2回Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞などを受賞。小説作品に『私労働小説 ザ・シット・ジョブ』(KADOKAWA)、『両手にトカレフ』(ポプラ社)、『リスペクト――R・E・S・P・E・C・T』(筑摩書房)などがある。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら