50代で初ひとり旅――子育てが落ち着き「旅に出るのは今だ」と出かけたのは"秋のパリ" 有元葉子さんの旅の記憶

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食べたり飲んだりしたものよりも、マリアージュ フレールで心動かされたのは内装です。床が砂でできていたのです。「素敵」と思いました。店はオープンな造りではないけれど、床が砂で、植物がたくさんあって、なんともいえず異国的な雰囲気なのです。ちょっとエスニックな香りの紅茶に、そのインテリアはぴったりです。

「私も自分の家の床を砂にしようかな」なんて思ったりして。「いやいや掃除が大変ね」って。お茶を飲みながら、そんなことを思っていました。この店で買ったものは、ジャスミンティーの香りのキャンドル。以来、見つけるとこのキャンドルを買うようになって、わが家の香りとなりました。

ひとり旅は五感を働かせるのにとにかく忙しい

旅の記憶 おいしいもの、美しいもの、大切なものに出会いに
『旅の記憶 おいしいもの、美しいもの、大切なものに出会いに』(講談社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

食べるものはもちろんのこと、建築やインテリア、そこで使われている道具や地元の人たちの暮らしぶりなど、海外では見るべきものがたくさんあります。私は食―住―衣と興味があるので、初めてのひとり旅は五感を働かせるのにとにかく忙しい。

モンブランで有名な老舗のサロン・ド・テへ行ったときのこと。行ってはみたものの、実は子どもの頃から甘いものがあまり得意ではなく、メニューを開いてちょっと困惑しました。

名物のお菓子は私には甘すぎるだろうし、ボリュームがありすぎて持て余すこと間違いなし。

どうしようかな……とまわりを見ると、大きな甘いお菓子を食べながら、甘そうなホットチョコレートを飲んだりしている。よく甘い飲みものと甘いお菓子を一緒に口に入れられるわね……と驚いていると、店の中でただひとり、周囲とは別のことをしている老婦人が目に留まりました。

旅の記憶 おいしいもの、美しいもの、大切なものに出会いに
老舗の「サロン・ド・テ」でのひとコマ(画像:『旅の記憶 おいしいもの、美しいもの、大切なものに出会いに』)

その人は私と同じくひとりでテーブルにいて、シャンパーニュのグラスを片手に、スモークサーモンののった薄いトーストをおいしそうに食べている。「あ、私もあっちだわ」と、同じものを注文しました。

昼下がりの老舗のサロン・ド・テ。運ばれてきたお皿には、香ばしく焼いた熱々の薄いトーストに、ひんやり冷たい大きなサーモンがのっています。軽く燻製されたサーモンの脂のうまみが口の中でとろけて、そのあとに冷たいシャンパーニュが喉を落ちていく心地よさ。

このコンビネーションは、パリのマダムや、人生の折り返し地点にいる私のような、充分に生きてきた年齢だからこそ、味わえるおいしさ。そんな気がしました。以来、シャンパーニュとサーモンのトーストの組み合わせを、家でも楽しんでいます。おいしいものと共にある、旅の思い出のワンシーンです。

撮影/青砥茂樹

構成(書籍)/白江亜古

有元 葉子 料理家

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ありもと ようこ / Yoko Arimoto

編集者、専業主婦を経て、料理家に。料理教室やワークショップ等を提案する「A&CO」の主宰ほか、キッチンウエア「la base(ラ バーゼ)」シリーズのディレクター、イタリア産オリーブオイル「MARFUGA(マルフーガ)」の日本代理店主宰を務めるなど活躍は多岐にわたる。レシピ本をはじめ、食を通して暮らしや生き方を語ったエッセイなど著者は100冊以上に及ぶ。近年のベストセラーは『レシピを見ないで作れるようになりましょう。』(SBクリエイティブ)、『生活すること、生きること』(大和書房)ほか。

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