50代で初ひとり旅――子育てが落ち着き「旅に出るのは今だ」と出かけたのは"秋のパリ" 有元葉子さんの旅の記憶
それ以来、すっかり病みつきになって、ずっと、ひとり旅をしています。もちろん何人もで出かける旅も好きです。グループ旅行は同行者とおしゃべりをしたり、同じ風景や食べものを一緒に味わう楽しみがあります。
ひとり旅では、旅先で地元の人や同じ旅人と話をします。だから知らない土地や人々のことがよくわかる。ひとりとグループとでは、旅の楽しみ方がまったく違います。だから私はひとり旅もしたいのです。
フライトのキャンセルやロストバゲージは今や20回を超え、スリにあったことも昔はありました。でも、行方不明だったトランクが、旅先のホテルに届けられた瞬間は「ああ、よかった」と純粋にすごくうれしい。
もしも見つからなかったら、この街で使うものを調達しなければ……なんて考えていたわけですから、「やれやれ、届いてよかったね」と、その夜はぐっすり眠れます。リスボンでは届けてもらえず、空港まで受け取りに行ったりもしましたが、ともあれ手元に戻れば一件落着です。
普段ならあたりまえのことも、旅先ではとてもありがたいことに感じられます。時間通りに電車が出発するだけで「よし!」と、大事をひとつクリアできたみたいな、自分が一歩前進したような。
ひとり旅にドキドキはつきものですが、良いことばかりの旅よりも、少々の不安や危険が伴った旅のほうが、案外記憶に残るものです。そして、たいていのことはなんとかなるのです。
ひとりで旅することは、ひとりで生きることにもつながる。そう思います。自由にやりたかったら、自分でなんとかする。自分で責任をとる。時には誰かに力を貸してもらうけれど、それも自分の力量のうちです。便利な日本で暮らしていると忘れがちな、生きるための動物的なカンや基本的な力が、ひとり旅をすると養われる気がします。
甘いお菓子よりも、シャンパーニュとサーモントースト
初めてのパリでは、もちろんカフェめぐりもしました。紅茶専門店のマリアージュ フレールは、今でこそ日本にもいくつも店舗がありますが、当時は知る人ぞ知る店。果物や植物で香りづけをした独特の茶葉を揃えていて、エキゾチックな雰囲気で……という情報をどこからか得ていたのでしょう。興味津々です。
マリアージュ フレールで、私は初めてスコーンというものを食べました。名前は知っていたけれど、「スコーンとはこういうものか」って。そんな時代だったのです。おいしかったのですが、スコーンはイギリスの伝統的なお菓子だということをのちに知りました。そのスコーンはイギリスのものより、だいぶ小さなものでした。
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