50代で初ひとり旅――子育てが落ち着き「旅に出るのは今だ」と出かけたのは"秋のパリ" 有元葉子さんの旅の記憶
行き先はパリ。でも、実はどこでもよかった。ひとりで、知らない街をあてもなく歩いたり、いろいろなものを見たり、おいしそうな地元のものを食べたり……をしたかっただけですから。ジヴェルニーのモネの庭を見てみたいと思っていて、パリからジヴェルニーへは日帰りで行けるので、それでパリを選んだのだと思います。
当時はまだ、個人旅行は少数派の時代。だけど、パック旅行は眼中になし。どうやってパリのホテルを予約したのか、今となっては自分でもよくわからず、はっきりとは覚えていません。1990年代初頭は今みたいにインターネットが普及していなかったので、メールで予約したわけでもないし。そもそもホテルの情報を何で得たのだったか……。
宿泊場所の決め方
ちなみに私はいわゆる観光名所など、みんなが行くところへはなるべく行きません。
宿泊も、有名ホテルや大ホテルを避けて、街中の便利な場所だけれど、ちょっと裏手にあって静かで、そこそこ高級ではあるけれど、ひとりで泊まっても居心地がよく、朝ごはんがおいしい。そんな宿が理想です。今でもこの基準は揺るぎなくて、国内でも海外でも宿に求めるものは一緒です。
初めてのひとり旅のパリで泊まったのは、ルーブル美術館の近くの小さなホテルでした。たぶんアタリをつけて、日本から自分で電話かファックスで予約したのだと思います。覚えたての拙いフランス語でがんばって予約したのか、それとも英語だったのか、すっかり忘れています。でも、まあ、予約できていたわけです。
季節は秋でした。2週間ぐらい、同じホテルに滞在して、街をぐるぐる歩き回りました。どこに行こうとも決めずに、今日はあっちのほうへ歩いて行ってみようとか、地下鉄に乗ってみようとか。
取り立てて何をするわけではないけれど、何を見ても新鮮で面白くて、ワクワクしっぱなし。ひとりでいることが、こんなにワクワクするだなんて思いもよりませんでした。
主婦、母親という立場は、家族のことが第一で、常に自分以外の人の予定で動いています。それがトランクを持って家を出たとたんに、空港でも飛行機の中でも、降り立った初めての国の初めての街でも、ずっとひとり。どちらへ歩き出そうか、このカフェに入ってみようか、向こうから来るあの人に道を聞いてみようか、明日は何時に起きようか……。
何から何まで自分ひとりで、自分の都合で好きに決められるのです。自由、解放感。長らく味わっていなかった新鮮な空気を胸いっぱいに吸って、体の隅々まで解き放たれていく感覚。初めてのひとり旅は感動的でした。
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