松本医師は「ともあれ、咳が長く続く場合は注意が必要」と話す。肺がんや肺結核など、背景に思いがけない病気が隠れていることがあるためだ。
では、長引く咳で受診する場合、どの診療科を受診したらいいのか。
「鼻やのどの症状が強ければ耳鼻科でもかまいませんが、基本的には呼吸器内科を受診してもらうのがいいでしょう」(松本医師)
受診の際には「咳が続いている期間」「咳が出やすい状況(冷気や香水など)」「これまでに使った薬とその効果」を医師に伝えると、診断がスムーズになる。
「『柔軟剤のにおいで咳が止まらなくなる』といった訴えも多いです。患者さんのこうした“きっかけの話”は診断の参考になるので、いつどんな状況で咳が出たのかをできるだけメモしておき、受診のときに話してもらえるといいですね」(松本医師)
慢性咳嗽の診断の進め方としては、まずは画像検査や血液検査で肺がん、肺結核、間質性肺炎などの重大な病気を除外する。そのうえで鼻やのど、胃などの症状や生活習慣などを聞き取っていく。
代表的な原因疾患としては、咳ぜん息、アレルギー性鼻炎、胃食道逆流症、新型コロナウイルス感染症、咳過敏症などだ。原因がわかったら、それに合わせた治療が行われる。
咳過敏症と診断されるのは、原因疾患を治療しても改善が認められない場合と、検査をしても原因が特定できない場合だ。治療には2021年に承認された新薬、P2X3受容体拮抗薬が使われる。気道表面にある神経の知覚部分の活性化を抑え、咳反射を抑制する作用があるという。
「咳過敏症の場合、医療機関を受診しても、症状が改善せずに治療をあきらめてしまった人もこれまで多くいたかと思います。いまは、医師に咳の状態を正しく伝えることができれば、咳過敏症の可能性を見出して治療することが可能になっています」(松本医師)
咳を出さないための生活の工夫
長引く咳で日常的に困っている場合には、医療機関での治療と併せて、「咳を出さない」ための生活の工夫も欠かせない。
まずは、「食後すぐ横にならない」「早食いや大食いを避ける」「チョコレートやコーヒー、脂っこい料理や香辛料を控える」といった、胃食道逆流症を誘発しやすい動作や食事を避ける。胃食道逆流症は慢性咳嗽の原因になりやすいからだ。
このほか、のどの乾燥は咳を悪化させるため、できるだけマスクでのどを守り、こまめに水分をとってのどを潤すことも大切だ。
さらに、「自分の咳がどのようなきっかけ、状況で特に出やすいのかを知り、その状況をできるかぎり避けることも大切」と、松本医師はアドバイスする。