介護保険のサービスを使えば経済的な負担は軽くなるとはいえ、それなりの負担はある。ましてや、介護保険が適用できないサービス(費用は全額自己負担)を利用して親を見守ってもらったり、介護付有料老人ホームに入居するにはもっとお金がかかる。お金があれば介護離職せずに済むという面はあるが、それをかなえるだけの経済力がない人が多いのが実情だ。
介護保険は元来、要介護になる方の負担を軽くするための保険だが、副次的な効果として、要介護になる親を持つ子の介護の金銭的・精神的・肉体的負担を軽くする効果もある。だから、介護保険があるのに、親の介護の負担が減らないのは、介護保険に不備があるからと思う方もおられよう。
サービスは重度者、低所得者にシフトを
しかし、前述の通り、介護人材や財源には限りがあり、この制約は解消に向けた努力は必要だが急には変えられない。とすれば、「介護離職ゼロ」の実現に近づけてゆくには、介護保険のサービスは、認知症予防にも力を入れつつ、より重度な要介護者にシフトさせ、より低所得の方に配慮した形で提供することが肝要である。
介護離職に追い込まれるケースは、子が親の身の周りの世話を付きっきりでする必要が出てきた時が多い。それは、より重度な要介護者で、日常生活の一部で介護が必要なより軽度な要介護者ではない。したがって、より重度な要介護者になった親を介護保険のサービスでケアできるようにできればよい。そう考えると、介護人材には限りがあるので、軽度者よりも重度者のサービスへと重点化することが求められる。
自らは高所得で働きながら、親に経済的支援を与えることで親の身の回りは(介護保険が適用できないサービスも含めて)人の手を借りることができる人なら、介護離職しなくてもよいかもしれない。また、重度な要介護状態だがより高所得・多資産の親ならば、子に負担をかけずに対処できるかもしれない。しかし、そうした経済的支援もできず、親も多くの資産を持っていないようなケースでは、介護離職に追い込まれる恐れがある。
そう考えれば、介護離職を防ぐには、より低所得・少資産の要介護者(およびその家族)に重点化して、介護施設などの介護保険のサービスが受けられるようにすればよい。より高所得・多資産の要介護者(およびその家族)は、介護保険のサービスだけでは足らないなら、介護保険が適用されないサービスも合わせて利用すれば対応できる。
言うまでもないが、わが国の介護保険制度では、介護保険が適用されるサービスとされないサービスを一緒に受ける「混合介護」が、制度発足以来認められている。ちなみに、政府が価格を決める介護保険のサービスだけでは介護職員の給料が十分に上げられないならば、価格が自由に決められる保険適用外サービスを合わせた「混合介護」を行うことでも、介護職員の給料の引上げに余地ができよう。
介護サービスの重度者や低所得者への重点化と高所得者の「混合介護」の活用を合わせて進めることは、「介護離職ゼロ」に向けた第一歩となる。
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