超難題「介護離職ゼロ」を実現するための方策

介護保険メリハリ運用と混合介護で打開せよ

では、介護職員を確保するために、介護職員の処遇(給料や就業環境など)の改善ができるよう、介護給付を増やせばよい。これこそが特効薬だ……と言いたいところだが、事態はそれほど簡単ではない。

介護職員の処遇改善には、政府もこれまで交付金の投入や介護報酬における加算を新設するなど、力を入れてきた。介護職員は、以前に比べれば離職率は低下している。しかし、他産業に比べて給料が低いという見方が根強い。本来は、勤続年数など給料の差異を生むさまざまな要因を除去して比較しなければならないから、単純に低いとは言いにくい。とはいえ、求職者が抱く認識が依然として「介護職員の給料は低い」というままでは、新たに介護職員になりたいと思う求職者が増えない。

介護職員が携わる介護サービスの提供には、おおむね1割の利用者負担を除く残りの9割は介護保険から給付が出され、それが介護職員の給料の源泉となる。介護保険からどのサービスにいくら給付するかは、政府が決めている。となれば、もし政府が介護職員の給料を直接的に上げようとすれば、介護給付を増額すればよい、という連想が成り立つ。

人材と財源に制約ある中での選択肢

介護給付の財源は、おおむね半分が税金、半分が40歳以上の人が払った介護保険料で賄われている。だから、介護給付を増やすには、そのお金が天から降ってくるわけではなく、税金か介護保険料かの投入を増やさなければ実現できない。別の言い方をすれば、他の支出を削減できなければ増税するか、介護保険料を引き上げるか、いずれかを行わなければならない。

要するに、介護職員の給料を上げることにつながるような、介護給付の増額(介護報酬の引上げ)を行うなら、その財源となる介護保険料を増やすか税の負担を増やすかを行わなければならない。

しかし、負担増には国民の強い反対がある。介護職員の給料を上げるためなら、保険料引き上げや増税に多くの国民が賛成するというほど実情は甘くない。その意味で、介護職員の処遇改善は重要だが、この策が特効薬といえる環境は醸成されていない。その上、仮に財源の負担増に応じられて介護報酬を引き上げたとしても、増えた介護報酬を介護職員に分けるか事業主がもらうかは、政府が決めるのではなくサービスを行った事業者が決めることである。介護報酬が上がっても、事業者の内部留保が増えて介護職員の給料が増えなかったのでは元も子もない。人手不足なのに賃金が上がらないのには構造的な問題があるのだろう。

ならば、現状を踏まえてできることを考えるしかない。介護保険制度にはほかにも解決を要する課題はあるが、本稿では「介護離職ゼロ」に焦点を絞ろう。介護保険制度の他の課題解決とも整合性がとれ、かつ「介護離職ゼロ」に近づける方策は何か。

カギは、介護人材と財源が限られている中で「重点化」と「混合介護」の活用を進めることである。

「介護離職ゼロ」に向けて最大の障害は、経済力である。要介護となった親が子に迷惑をかけずに自分の生活を営むには、親族以外の人の手を借りるしかない。親の介護で人の手を借りるには、お金がかかる。そこで、この負担を皆で分かち合い、地域で高齢者を見守って要介護になる方の負担を軽くするために、介護保険がある。

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