日銀はインフレ目標を貫徹する姿勢が重要だ 追加緩和の有無よりも大事なことがある

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短期的な影響の観点から筆者が懸念しているのは、追加金融緩和を見送った場合の市場のリアクションだ。脱デフレが道半ばにあり、経済・インフレの想定が下方修正され、インフレ期待が不安定化する兆しがある、などの点で1年前と現在は似ている。

それで追加金融緩和が発動されない場合どう受け止められるか。日本銀行が2%インフレ目標の早期実現にこだわらず、金融緩和に積極的ではないと市場が認識(あるいは誤解)する可能性がある。

ECB総裁はユーロ高阻止を意識

為替市場では、ECBによる金融緩和延長あるいは緩和強化に対する期待が根強い。10月22日の理事会後の記者会見で、ドラギECB総裁は、12月の金融緩和強化を強く示唆したことに加えて、「ユーロ高が物価安定のリスク」と言及した。

仮に日本銀行の政策が「不変」なら、追加緩和によるユーロ高阻止を強く意識しているECBとの対比で、日本銀行の姿勢が対照的との思惑が浮上するかもしれない。実際には、日本銀行が現行の政策を継続するだけで、ECBとの対比でも見劣りしない金融緩和を実施しているのだが。

また、市場関係者の間で日本銀行には金融緩和強化の手段が枯渇しているという見方も散見される。本来、追加金融緩和の是非はメリットとデメリットを比較して検討されるべきで、緩和手段が限られていると筆者は考えないが、同様の思惑を抱く関係者が増える可能性もある。

10月の政策判断と黒田総裁などの説明次第では、市場とのミスコミュニケーションが生まれ、日本銀行の次の政策が、金融引締め(テーパリング)になるとの思惑が浮上する可能性がある。現段階ではリスクシナリオの一つに過ぎないが、頭の片隅に入れておきたい展開である。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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