「吉沢亮や横浜流星の好演だけじゃない」映画『国宝』の超ヒットを導いた《李相日監督の“背景”》
それが、口コミなどで広まっていき、3週目で初めてトップに立つという珍しいヒットの仕方で、これはひとえに作品の力と言っていいだろう。ではその作品の力とはどのようにして生まれたのだろうか。
念のため、簡単に『国宝』の物語を紹介しておくと、任侠の一門に生まれた喜久雄(吉沢亮)が歌舞伎の名門の家に引き取られ、その家の御曹司・俊介(横浜流星)とともに、歌舞伎役者として研鑽を積んでいくという話である。
喜久雄は歌舞伎一家の血を継いでいない人間であるのに対し、俊介は正当な後継者の血を引くことが2人の関係を複雑にしていく。
さて、1974年生まれの李監督は、1999年に映画監督としてデビューし、ここ最近は数年に一度のペースで長編映画を発表している。李監督の『国宝』以前の作品を興行収入順に並べると、TOP3は以下の通りである。
② 『怒り』(2016年、東宝)16億円
③ 『フラガール』(2006年、シネカノン)14億円
どれもヒットしているものの、それと比較しても、今回の『国宝』は現時点で80億円を超えており、群を抜く大ヒットである。一方で、『国宝』はこれら3作品との共通の仕組みも持っており、それがヒットの基盤を作っているとも言える。

※以降、一部ネタバレを含みます。
『悪人』や『怒り』との違い
まずわかりやすいのは、『悪人』や『怒り』と同じく、『国宝』も吉田修一原作であるということだ。吉田は『国宝』の映画化に際し、「三たび、信頼する李相日監督に自作を預けられる喜びにあふれている」とも語っていて、その信頼の厚さがうかがえる。
特筆すべきは『悪人』も『怒り』もラストがかなり重い終わり方になっているという点である。決して、後味がいいわけではなく、ずっしりと残る。もちろん、批判しているのではない。2作とも、映画館を出ても引きずるような、観客たちが生きている日常の見方をも変化させる可能性を持つ、重厚な作品である。
一方で、『国宝』は、途中は重い展開もあるものの、ラストは主人公がこれまでのさまざまなことがあった人生を踏まえたうえで、それを美しく彩るような描き方となっており、2作に比べて重くはない。
李監督は『国宝』に関して「脚色という意味では、3本の中でも最も脚色している」(「朝日新聞」2025年4月19日)と語っているが、実はラストは原作と比べても少しマイルドで、ある意味でハッピーエンドとも言える後味になっている。

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