「60代女性の頭皮のにおいを嗅いだ瞬間…」《臭気判定士》下水管、靴下、わきの下──あらゆる異臭・悪臭を約30年嗅ぎ続けた仕事のリアル

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石川英一さん
臭気判定士の石川英一さん。めくるめく「におい」の世界を語ってくれました(撮影/梅谷秀司)

マンションの異臭騒ぎから、新商品の消臭効果測定まで──。私たちの暮らしに潜む「におい」の問題に立ち向かう、ユニークな専門家がいるのをご存じですか?

国家資格「臭気判定士」の第一期合格者にして、“においの探偵”の異名を持つ石川英一さん(66)。元バイク便ライダーという異色の経歴の持ち主ながら、今では住人の気づかない異臭源を突き止めたり、時に大手メーカーの商品開発に関わったりと、その鋭い嗅覚を武器にさまざまな現場を駆け回っています。

「固定された考えを持たないこと。この仕事では、それが一番大事」と語る“においのプロ”に、特殊な業務の実態と、知られざる「におい」の奥深き世界を案内してもらいました。

合格率約25%の難関国家資格を取得し「臭気判定士」に

「におい関連の仕事を始めてから30年近く経ちますが、業界内の口コミで評判が広まり、しまいには“男性の脇の下や女性の頭皮を嗅ぐ”といった依頼までくるようになっていました」(石川さん、以下同)

ギョッとする仕事内容ですが、語り口調はいたって真剣。

「臭気判定士は平成8年(1996年)から始まった国家資格で、私がちょうど第一期の合格者です。もともと、この資格保持者が担当するのは、『悪臭防止法』に基づいて工場の排気ガスなどのにおいを測定するという、公認オペレーター業務が主だったんですよ」

かつて、工場などから発生するにおいの規制は、アンモニアや硫化水素といった特定の22物質の濃度によって行われていました。しかし、規制物質が検出されないにもかかわらず「とにかく臭い」という苦情が増えたことで、新たな基準が必要に。そこで導入されたのが、人間の鼻でにおいを直接測る「嗅覚測定法」です。

現場で採取したにおいを無臭の袋に入れ、実験室で100倍、300倍、1000倍……と段階的に薄めていく。それを「パネル」と呼ばれる6人の嗅ぎ手が嗅ぎ、全員が「においが分からなくなった」と判断した倍率を「臭気濃度」として数値化。この極めてアナログな測定の精度を管理する専門家として、臭気判定士は誕生したそうです。

「資格を取ったのは、当時勤めていた臭気測定器材メーカーの上司から、業務上必要だと求められたからです。試験の合格率は25〜30%ほど。あの時代は悪臭を専門的に扱う国家資格が他に存在せず、何十年かぶりに誕生した国家資格だったということもあり、大きな注目を集めました」

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