「歌を聴いていると気に障る」「暗いヤロウだ」とアンチが湧いた過去…それでも《さだまさし》が「1兆人に1人の存在」と絶賛されるワケ
さだの著書やインタビューに、
「『精霊流し』で暗い、『無縁坂』でマザコン、『雨やどり』で軟弱、『関白宣言』で女性蔑視、『防人の詩』で右翼と言われた」
という炎上説明の定型文があるほど、ヒットはするが、猛烈な逆風も吹くという謎の法則が続いたのだ。
顔よりもメガネの幅のほうが大きいような細身のスタイル。声も繊細で高く美しい。しかも弾いているのはギターではなくバイオリンである。
Tシャツにジーパンでギターをかき鳴らし、世間を憂う反体制フォークが全盛だった時代、彼のか細さは浮いた。いじりやすくもあったのだろう。いま聴けば暗い歌ばかりじゃないのだが、なぜか「さだまさしは暗い・神経質」というイメージがつき、「さだまさしのファン」と公言しにくい風潮があった。
失恋した女性の本音を歌い、「怖い」と言われた中島みゆきと少し似ている。
さだ自身も、谷村新司と共演した「地球劇場~100年後の君に聴かせたい歌~」(BS日テレ)にて「ファンも弾圧されたね。レコードジャケットは座布団の下に隠す、隠れキリシタンならぬ『隠れまさしタン』だった」と当時を回想している。

笑顔がない“嫁ぐ歌”『秋桜』
改めてさだまさしの曲を聴くと、暗い歌ばかりではないが、掲げたテーマのイメージとはまるで真逆だったり、意外なアプローチをしていたりすることに驚く。
『HAPPY BIRTHDAY』では「昨日迄の君は死にました」という歌詞が出てくる。誕生の歌に「死」のワード投入……! もちろん、それがあってこそ、次の「明日からの君の方が僕は好きです」が最高に生きてくるのだが、ドキリとする。
山口百恵に提供した『秋桜』も、こんなに切ない嫁ぐ歌はほかにない。
結婚を“愛する人と一緒になる”という視点ではなく、家を出る娘と母の愛情にフォーカス。嬉しさより寂しさ濃度高めで、歌う山口百恵さんは笑顔を浮かべない。
笑いはしないが慈しみが漂うすさまじい表現力を見せる彼女は当時18歳! さだが電話で彼女に「(この曲)ピンとこないでしょ」と聞くと「はい」と答えたそうだ。
しかし三浦友和との婚約後、「さださんがこの歌を書いてくださったお気持ちがやっとわかる日がきました」とメッセージが届いたというエピソードはグッとくる。
この歌で描かれる悲しさは、イニシエーションのよう。静かで尊い。
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