ただ、その苦労が、豆腐に対する敬愛を強くしていった。「子どもの頃、工場に遊びにいくと、従業員のおじちゃんおばちゃんが『よく来たね』ってやさしく迎えてくれたんですけど、こんなに大変な仕事をされていたのかといまさらながらに知って、あらためて感謝しているところです」。
老舗に似合わぬ、ファンシーな直売店を作った理由
シャンデリアに、アンティークの白い飾り棚やテーブル、ショーケース。一見するとケーキ屋のような直売店を工場の横に新設したのも、その感謝の気持ちが背景にあった。

「出来立てのお豆腐を食べていただきたくて、父の反対を押し切って直売所を作りました。私がアンティークを好きだということもありますが、職人さんが一丁一丁手作りしているお豆腐を、ケーキのように丁寧に手渡したかったんです。
つい先日もね、大学生くらいの若い男の子がケーキ屋さんだと間違えて入ってきてくれたんです。『ごめんよ。お豆腐なんです』と言ったら、何も買わずに帰って行きました。かわいいお豆腐もあるから、買ってくれるかなとちょっと期待したんですけど、さすがにお豆腐はいらなかったみたいですね」


ショーケースにはその日に作られた豆腐や厚揚げなどが丁寧に並べられている。すべて自信作。中でも、下田さんのおすすめは「たま厚揚げ」と「まったりおぼろ豆腐」だ。

たま厚揚げは、自動販売機でも販売している「卵とうふ」を揚げたもので、ほかの豆腐店では見かけたことがないオリジナル。工場長である弟の泰功さんの発案だという。
外は香ばしく、中はプリンのようなとろける食感。上品な味付けであっさりとしているが、揚げてあるので食べ応えもある。卵とうふ自体に味がついているので、そのまま食卓に出せるのもうれしい。
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