「Yahoo!天気アプリ」にZ世代がなぜ殺到? 《盛らないSNS》があぶり出す"緩い承認欲求"の深層

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さらに深刻なのは、GPS偽装による虚偽投稿の可能性だ。GPS偽装ツールは容易に入手可能で、悪意のある攻撃者は偽装した位置情報から「駅で火事!」と投稿してパニックを引き起こしたり、物理的にその場にいることなく被害者の自宅周辺に組織的にメッセージを投稿してストーキング行為を行うことも理論上は可能だ。

本来の天気情報(「雲の流れ速い」「雨やんだよ」)に加えて、「今日こそ勝て千葉ロッテマリーンズ」や地震情報など天気とは無関係な投稿も混在。一部ユーザーからは「ツイッターのノリはツイッターでやってください」と利用規約の遵守を求める声も上がっている(画像:筆者撮影)

LINEヤフー広報は「利用ルールに照らして、誹謗中傷や虚偽など不快な投稿や個人を特定するような情報は、パトロールにて発見次第、削除している」と述べており、現在のところ大規模なデマ拡散事件は報じられていない。

一方で同社には、匿名コンテンツのモデレーションに関する苦い経験もある。LINEヤフーが運営するYahoo!ニュースのコメント欄は、その有害性と偽情報の拡散に長く苦しんできた経緯があり、匿名コンテンツを大規模かつ効果的にモデレートする難しさを体現している。

「みんなの投稿」機能は、ここに「リアルタイムの即時性」と「ジオロケーション」という、2つの新たな危険な要素を導入する。特定の現実世界の場所にピンどめされた、パニックを誘発するニセのメッセージは桁違いに危険になりうる。

偶然の奇跡か、消えゆく純粋さか

LINEヤフーが防災目的で設計した機能を、ユーザーはまったく別の価値創造の場として活用した。この現象が映し出すのは、既存SNS市場の飽和と新たなニーズの発掘という市場構造の変化だ。「盛らない」「数字に縛られない」コミュニケーションへの需要は、今後のSNS市場において重要なセグメントとなる可能性がある。

世界最高峰の技術を駆使して「バズる」コンテンツを生み出そうとする大手SNSを尻目に、天気予報アプリの片隅で「今起きた」「セミうるさい」という何気ないつぶやきが人々の心を癒やしている。この皮肉な現実こそが、デジタル時代の私たちが本当に求めているものを物語っているのかもしれない。

斎藤 健二 金融・Fintechジャーナリスト

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さいとう けんじ / Kenji Saitoh

2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社で複数媒体を創刊、編集長を務める。その後メディア事業担当の役員としてビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わった。2023年に独立。Xアカウントは@3itokenji

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