ハーバード大学の学寮がここまで称賛される理由 日本人が知らない米リベラルアーツ教育の本質とは何か

堀内:私事になりますが、東洋経済新報社より刊行する予定で教養をテーマとした本を執筆していて、米英のリベラルアーツ教育と日本の教養教育との違いについて、いろいろな方に話をうかがっています。小林さんは、ハーバード大学とスタンフォード大学に留学経験をお持ちですが、アメリカのリベラルアーツ教育のよさはどこにあるとお考えでしょうか。
私が体験したリベラルアーツ教育の本質
小林:高校卒業後、私は一橋大学に半年間在籍した後、ハーバード大学に進学しました。学部時代に最も影響を受けたのは、全寮制で行われるリベラルアーツ教育の仕組みでした。このレジデンシャル(居住型)リベラルアーツと呼ばれる定義や仕組みが、日本と根本的に違うと感じ、後にスタンフォードの大学院でも学びました。
リベラルアーツは、ひとことで言えば、多様性を重んじ、異なる世界や価値観に触れることを通じて、社会に貢献しながら生きるための自由(=リベラル)な思考と一連の技術(=アーツ)を育む教育です。
日本では「教養」という訳語が与えられてしまったこともあり、幅広い知識の習得や、芸術・人文系の学問を指すという印象が強いかもしれません。しかし、歴史的には、算術や天文学など、理系の先端科学も含まれてきました。重要なのは、幅広い問いに触れ議論する中で、知的好奇心、批判的な思考、また論理的な分析といった、学び続ける基礎となる力を身につけることにあります。
ですから、単に受講科目の幅だけでなく、多様なバックグラウンドから集う学生が共同生活する中で起こる、日常的な他者との議論や気づきが極めて重視されています。異質なものに出会った際に拒絶するのではなく、価値観や経験の違いを新たな世界との出会いのきっかけとして、自分の学びや成長に変え、1+1が3にも4にもなっていくようなスキルセットを育てようとするのです。