中国が香港の大富豪をバッシングする理由 「恩知らず」批判の裏にどんな思惑が

✎ 1〜 ✎ 160 ✎ 161 ✎ 162 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

しかし、李氏は唐氏を支持していたのだ。さらに厄介だったのは、李氏が梁氏のさまざまな誤った政策に対する異議を公的に示していた点だった。共産主義国の学生なら誰でも知っているように、政治的な反対の表明は、どんなに温和なものであっても破滅につながる可能性がある。中国では「不同意への同意」は存在しない。指導者が一度口を開けば、「従う」しかないのである。

李氏の場合は、危険度が特に高い。政治的な便宜を過度に重視すると思われている香港の多くの実力者とは違って、彼は強い良心の人だ。それゆえに大きな尊敬に値すると評価されている。李氏は「スーパーマン」というニックネームもつけられて親しまれている。

しかし、いま中国の支配者たちは梁氏を通じ、中国共産党の言葉で言うところの香港の「非植民地化」という、破滅的な結果を導く可能性がある政策を推し進めている。たとえば、当局は最近、司法の独立や権力分立は「植民地の」遺産であり、破棄されるべきだと宣言した。そして、支配を行うのは香港の裁判所ではなく、中国政府と香港行政長官であるとした。

「家を選ぶ自由」

こうした移行期においては、李氏のような立場の者からの異議は、中国の指導者たちが恐れる、社会を不安定にさせる影響力を持つ可能性がある。だから、李氏の「神格化を解く」必要がある。

中国の攻撃からほぼ3週間。この攻撃は石のように押し黙っていた李氏に、これまでしなかったことをさせた。それは反撃だ。彼が中国を捨てようとしているとの非難はまったく誤りだと指摘するだけではなく、彼が「恐怖に震えていた」文化大革命の戦術を用いて、中国を公の場で非難したのだ。

李氏は声明の最後を、唐王朝と宋王朝時代の権威ある中国の詩人2人によるメッセージ3行で締めくくった。自分の家は自分が安全だと感じるところだ、との言葉だ。中国語がわかる人にとって、言外の意味は明らかだ。「中国は私の祖国かもしれないが、私は自由人であり、自分の家を選ぶ自由がある」。

世界の歴史と文学を熱心に読む李氏は、多くの中国人が1949年以来、大きな個人的悲劇から学んできた教訓を重く受け止めてはいないようだ。中国政府の核心的な価値は、唐や宋の詩人の人間味ある礼節ではなく、マルクス・レーニン主義のゆがんだ理論と、現在でもしばしば獣のような暴力的な統治を用いる共産党の非道徳的な軍国主義の伝統に支配されている。

中国の指導者が香港への支配を強め続ければ、香港には背筋が震えるような感覚が根付いてしまうことになりそうだ。

週刊東洋経済10月24日号

シンミン・ショウ コラムニスト、個人投資家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

元英オックスフォード大学フェロー、元米ミシガン大学客員教授。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事