日本の餃子が世界で愛されるようになった理由とは? カンヌライオンズで注目を集めた「日本食のクリエイティビティの秘密」
本田:ですよね。味の素の欧州アフリカ本部長でさえ数えきれないくらいですよ(笑)。そして最後にGlobalise(グローバル化)。2000年代以降、ラーメンは世界中で人気を博しています。ニューヨークではヴィーガンラーメン。パリではトリュフラーメン。バンコクではトムヤムラーメン。つまり、日本のラーメンが、今度は逆に世界中にインスピレーションを与えているんです。
まさに「クリエイティブ・カルマ(創造の因果応報)」ですね。ラーメンは、「創造的循環モデル(Creative Cycle Model)」の完璧な例です。そしてこのモデルで重要なのが、「マージン(余白)」の考え方です。つまり、ちょっとした「解釈の余地」です。他者のアイデアや異なる文化が自分たちの創作を変化させることに対して、私たち日本人は非常にオープンなんです。
「これが正解だ」という1つの完成形があるわけではない。だからこそ、クリエイティビティはどんどん進化していくんです。森さん、松嶋さん、この「創造的循環モデル(Creative Cycle Model)」についてどう思われますか?
松嶋:日本にはさまざまな料理があります。ここ(スライド)に見えているのは、天ぷら、オムライス、カレーなど……本当にいろんな料理がありますね。私たち日本人は、海外から来た食べ物をすべて「日本化(ジャポナイズ)」してきました。それらを日本人の味覚に合うように変えてきたのです。では「ジャポナイズ」とは何か?それは、どんな料理であっても、私たちは無意識のうちに「うま味」を引き立てている、ということなんです。
つまり、日本人の味覚に寄り添うように調整することが「ジャポナイズ」なんです。外国の料理を受け入れ、それを自分たちの文化として育成してきた。このような味を楽しめる人たちは、心が穏やかで成熟していると思います。文化がある一定の成熟度に達したとき、人はこうした「味」と出会うんです。そしてその味を楽しむとき、私たちの心と体は「ウェルビーイング(健やかさ)」の状態になります。「うま味」の力は、単なる「おいしさ」だけではありません。
日本では、「うま味」のおいしさとともに健康を育んできた歴史があり、心身の健康に重要なものです。世界の成熟した地域には、必ず「うま味」を含む食文化があります。日本はまさにそうした成熟した国の一つです。外から何かが入ってきても、「うま味」とともに成熟させる力を持っています。「日本人の味覚に合うようにする」という表現をよく使いますが、それは単に「おいしさ」を求めるだけでなく、「健康」までも求めているということです。それこそが日本で発見された「うま味」の素晴らしさです。今日のテーマは「おいしさ」ですが、それが同時に心身の健康にもつながっているという点が、非常に重要です。
「うま味」は本当に大切な存在です。今、世界中でさまざまな争いがある中で、「うま味」を豊かに感じられる日本の食を世界の人々にも味わってもらうことで、もっと成熟した、もっと平和な世界を提案していきたい。それは、海外の人々が日本に寄せる期待でもある。私はこれからも、そんな料理を作り続けていきたいと思います。多くの海外の方々が、「日本に期待している」と私に言ってくれます。何を期待しているのか?それは、日本の成熟した食文化の本質的な価値を、世界に発信してほしい、ということなのだと思うんですね。
食べながら心も体もリラックスできるのが日本食
本田:「Reinvent(再構築)」の背後には、「うま味」という“技術”があると。
松嶋: 確かに、企業が開発できるような「技術」はあります。でも、それだけではありません。「うま味」は、私たちの舌の味蕾に働きかけて、身体の生理的な機能を活性化させます。これは人類共通の反応です。だからこそ、単に「おいしい」を求めるだけでなく、食べながら心も体もリラックスできる。それが日本食の力です。この力は、今のような不安定な世界の中で、とても貴重な価値だと思います。こんな時代だからこそ、日本食の持つ価値が、世界で求められているのだと思います。
本田: とても深いお話でした。ありがとうございます。森さん、味の素としてはいかがですか?
森:私たち食品メーカーでも、この「創造的循環モデル(Creative Cycle Model)」を使っています。最初の「Inspire(着想)」の段階では、現地の料理や味、使われている食材、調理方法などを理解・分析します。そして次に、「Reinvent(再構築)」で、それらを製品として再構築していきます。
松嶋シェフがおっしゃったように、私たちも「うま味」と「おいしさのルーツ」に着目し、新たな製品を開発します。しかも、それを多くの人が手に取れるよう、手頃な価格で提供することを目指しています。最後に「Globalise(グローバル化)」。このサイクルを、私たちは世界34カ国で実践しています。一例として「餃子(ぎょうざ)」を挙げたいと思います。ラーメンと同じで、餃子も日本でとても人気のある料理ですが、もともとは中国の点心ですよね。しかし日本に入ってきた後、日本では「焼き餃子」として再発明されました。
さらに私たちは、アメリカやブラジル、アジア諸国、ヨーロッパなど、世界中でこの餃子を広めるために「再々発明」したのです。たとえばヨーロッパでは、餃子はフィンガーフードとして扱われることが多く、必ずしも焼く必要はなく、揚げてもOK。日本のように主菜ではなく、前菜のように食べられます。具材も異なり、日本では豚肉が主流ですが、ヨーロッパでは鶏肉や野菜ベースの餃子が主流です。それぞれの文化や食習慣に合わせて、ローカルな料理として餃子が再構築されていきます。ラザニアに餃子が入る、なんてこともあるんですよ。
私たちはこのように、世界各国でこのモデルを使ってグローバル化しています。
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