SF好き集まれ!【シュレーディンガーの猫】【多世界解釈】量子力学の有名理論を徹底解説

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コペンハーゲン解釈では、観測──それが何であれ──をした瞬間に、実験で確認された世界以外の並行宇宙はすべて瞬間的に消え去ってしまう、と考えます。それに対して、多世界解釈では、実験や観測をしたとしても、それ以前に存在した並行世界はその後も存在し続けると考えます。実験後は、ただ単に異なる世界を感知しづらくなるだけだというのです。

(画像:『95%の宇宙』より)

あらかじめ組み込まれていたメカニズム

これは、ご都合主義的に感じられるかもしれませんが、そうではありません。先に見たように、量子力学では、粒子が異なる場所に存在する世界の干渉は、ある確率で起こります。そしてこれは、人間のような、数多くの粒子でできた存在が干渉する確率は、極めて小さいことを意味します。量子力学では、たくさんの粒子からできたものは事実上干渉しないのです。

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重要なのは、これは観測した瞬間に並行世界は消えてなくなるなどという人為的なルールを入れなくても、自動的に起こることだということです。観測とは、実験装置を通して私たちが観測対象と相互作用することに他なりません。そして、このような相互作用が起こった後には、異なる結果を得たような世界の干渉は無視できます。つまり、量子力学には、私たちのようなマクロなものが並行世界を感じないというメカニズムが、あらかじめ組み込まれていたのです。

ちなみに私は、多世界「解釈」という用語は極めて紛らわしいと思っています。これだと、コペンハーゲン解釈と多世界解釈では、その解釈が違うだけで、物理としては同じであるという誤解を生むからです。これは正しくありません。

多世界解釈では、観測後も、異なる観測結果を得た世界は存在し続けます。そして、これらの並行世界は事実上干渉しないだけであって、原理的には干渉させることが可能です。一方で、コペンハーゲン解釈では、観測後には別の世界は完全になくなってしまいます。しかも、先に述べたように、それがいつ起こるかはしっかりと定義されていません。

このように量子力学は、多世界解釈を通じて、並行世界の存在を強く示唆します。これらの並行世界では、粒子の配置、ひいてはその集まりでできている人間の行動、天体の運動までもが違っていると考えられます。つまり、歴史の違う世界が並行して存在していると考えられるのです。

野村 泰紀 カリフォルニア大学バークレー校教授

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のむら やすのり / Yasunori Nomura

1974年、神奈川県生まれ。バークレー理論物理学センター長。ローレンス・バークレー国立研究所上席研究員、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構連携研究員、理化学研究所客員研究員を併任。主要な研究領域は素粒子物理学、量子重力理論、宇宙論。1996年、東京大学理学部物理学科卒業。2000年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。米国フェルミ国立加速器研究所、カリフォルニア大学バークレー校助教授、同准教授などを経て現職。著書に『マルチバース宇宙論入門 私たちはなぜ〈この宇宙〉にいるのか』(星海社)、『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論』(講談社)など。

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