原田泳幸・日本マクドナルドホールディングスCEO--爆走するエネルギー、米国へのあこがれと反発

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さらにその年の7月、残業料不払い問題が表面化した。藤田時代からアルバイトの給与、社員の残業料について30分未満を切り捨てていたのだ。原田は支払い方法を1分単位に切り替え、過去2年間の未払い残業料として30億円弱の特別損失を計上。結果、05年12月期の最終損益は赤字スレスレまで落ち込んだ。

「そしたらまあ、マスコミにたたかれた。一生忘れないくらい。覚えていますよ。だけど、それが一つの励みになったのも事実」。屈辱が原田のエネルギーに火をつけた。100円メニューの旗を下ろすどころか10品目以上に拡大し、社内を鼓舞した。「戦略は絶対正しい。成功するまでやる。キリスト教だって、迫害されたからこそ残っているんだ」。

一方で作戦どおり、精力的にQSCの向上を追求した。その象徴が、できたてをそのまま提供できるキッチンシステム「メイド・フォー・ユー」の導入である。従来は作り置きし、冷めたハンバーガーを「チン」して顧客に出していたのだ。

原田には強烈な原体験があった。ボリューム感が売りの新商品マックグランの試食会。トマト味のマックグランを試したら、とても食べられた代物ではない。「こんなものテストするほうがおかしい。味をよくする解決方法は何だ、と聞いたら、『メイド・フォー・ユーです』と言う。だったら、すぐに全店舗に入れろ」。

地域別価格という値上げ グローバル企業たれ

メイド・フォー・ユーは00年から導入し始めていたが、設置率は50%に満たなかった。1台数百万円。幹部たちは「急速な導入は危ない、経営の負担になる」と反対した。

「(調理機械の)メーカーが人手不足で設置できないと言っています」という横やりも入った。原田は「メーカーはどこだ? 松下(現パナソニック)か。俺、社長を知ってるから、明日行ってくるよ」。

QSCが改善され、来店頻度が上昇すると、06年1月に“中”価格品「えびフィレオ」を投入。さらに07年6月、国内外食業界では前例のない「地域別価格」を導入した。実質的な値上げである。値上げは計6回、累積25%以上。客数と客単価の上昇がダブルで業績を押し上げた。

実は100円メニューも、メイド・フォー・ユー、地域別価格も原田のオリジナルではない。いずれも米国のマクドナルド本部が開発し、世界各国で威力と効果が実証されたものばかりなのだ。

原田は就任直後、「グローバルに連動すれば、全店売上高6000億円は十分可能」と訴えた。まだ売上高が3950億円しかなかったときである。原田のストーリーは明快だ。アップル、ティファニー、BMWなど、成功したグローバル企業は、必ず日本法人の売り上げ貢献度が2ケタある。それは、優秀なグローバル企業が持つブランド力、商品力、インフラが世界のどこより、ここ日本市場で威力を発揮するからだ。

逆に、日本マクドナルドは毎年、ファストフード市場でシェアを3%失った。なぜか。藤田が「日本へ持ってくればこっちのもの」(藤田の自著『Den Fujitaの商法』)とばかり、グローバルなノウハウに背を向け、日本的な我流を押し通したからだ。もし、グローバルのノウハウを実践していたら、もう6000億円は達成できている──。

だから、しっかりグローバルに連動しよう。が、藤田の流儀に慣れた社員は「日本は違う。米国の本部はわかっていない」と反発した。

「嫌なら日本のうどん屋に行け」。原田は一蹴した。「トヨタが日本国籍のグローバル企業であるように、われわれはアメリカ国籍のグローバル企業だ。それは普遍的なものであり、変えることはできない」。

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