町の病院が次々と破綻、外科医が減り手術が受けられない…現役医師が指摘する「医療の暗黒時代」

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私の病院がある東京都大田区に隣接する神奈川県川崎市では、2023年の夏、60年以上、その地域のお産を担ってきた産院が閉院した。19床の有床診療所で、鉄筋6階建ての立派な産院だったが、医師と看護師、助産師などの確保が難しく24時間対応ができなくなったのが要因だったと人づてに聞いた。

ちなみに、医療法では、20人以上の患者を入院させるための施設を有するもの、つまり20床以上を病院、入院施設がないか19床以下の患者を入院させる施設を有するものを診療所と定義している。

医師採用の成功報酬は200万円

私の病院では、幸いなことに今のところ医師や看護師などのスタッフは充足しているが、確かに、看護師などのスタッフの募集には、広告料や募集サイトの手数料などかなりのコストがかかる。1人の常勤の医師を探す場合、広告料や募集サイトの成功報酬で200万円近くかかることもあるくらいだ。

診療報酬で入って来る収入は決まっていて、それも今後伸びが期待できないのに、魅力的な賃金や労働条件を示さなければ、いい人材は集まらない。医師や看護師募集の広告料などがかさんで経営が苦しくなり、経営者自身も疲弊してくれば、閉院しようかと考えるのは無理もない。私の病院も、いいスタッフに恵まれなければ、とっくに閉院していただろう。

川崎市では、2024年3月に、138床の急性期病院である大学病院の分院も閉院した。「医師の働き方改革」で、規定時間以上の残業が難しくなったこともあって、医師などのスタッフの確保が難しく、収支が取れなくなったことが要因だという。

大学病院の分院といっても、その地域の救急医療を担い、消化器や脳血管疾患などの緊急手術にも対応してきた病院だ。今後、高齢化率が急速に高まる地域であり、住民への影響は計り知れない。

生産年齢人口は減るのに、医療・介護ニーズが急激に高まるのだから、いくら65~74歳の元気な高齢者を働かせても医療・介護業界の人手不足はなかなか解消しないだろう。

2035年には、団塊の世代が全員85歳以上になる。85歳以上の高齢者が増えれば、救急搬送や在宅医療の需要も増加する。2021年には全国で約45万人だった老人ホームからの救急搬送も、2040年には約67万人に増加すると予測されている。

老人ホームの中で夜中にトイレに行こうとして転び、太ももの骨を骨折して119番したけれども救急車がなかなか来てくれず、痛くてのたうち回る。2時間くらい待ってやっと救急隊が来たと思ったら、今度は受け入れてくれる病院が見つからず、朝になってやっと入院先が見つかったが、すぐに人工骨を入れる手術ができず、転ぶ前には歩けたのに寝たきりになってしまう。

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