台風の眼にジェット機で飛び込む気象学者、「台風は空に浮かぶCD」と例えるワケ。「台風は進行方向の右側と左側、どちらが危険か」知ってる?

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台風では、中心のまわりを同心円状に反時計回りの風が吹いていますが、海面近くでは風が少し円周方向からはずれて中心に向かいます。これによって台風周辺の渦が中心部に運び込まれながら強まります。

これはフィギュアスケートでスピンをするとき、腕を身体に引きつけると高速回転になるのに似ていて、同じように台風の中心周辺の風も強くなるのです。つまり台風の中心近くで風速が大きくなるのは、海面近くの中心に向かう風が渦を強めるからです。

この風は大気下層のおおよそ高度1㎞以下にあるのですが、台風の中心からある距離(半径数㎞から100㎞程度まで)の内側に入ることができません。そこでは中心のまわりを回る風が強すぎて、遠心力が大きくなり中心に向かうことができなくなるからです。

このためその風は行き場をなくし、上向きに転じて上昇気流となります。この上昇気流は湿っているので雲を作ります。

なぜジェット機で台風の眼に入れるのか?

一方でこの半径より内側では、ほとんど雲ができず、これが台風の眼となります。上昇気流は眼の周辺の全方位で起こるので、眼を取り巻くように背の高い雲ができます。これを眼の壁雲といいます。

壁雲の上昇気流は高さとともに外向きに傾いて、対流圏上端(およそ高度10~16㎞)で外向きに吹き出す風となります。

つまり上昇気流と壁雲の形は、咲き終わりのころのチューリップの花のように開いた形をしています。このように上層では、風が台風の中心から離れていくので、台風中心の周囲を吹く風は弱くなります。

つまり台風のなかでは、風がどこでも強いのではなく、暴風域は壁雲の地表面付近と下層にだけ存在しているのです。

このため私たちがジェット機で行っている台風の航空機観測では、台風上部の風の弱いところを飛行するので、ほとんど揺れることなく安全に台風の眼に入ることができます。

2024年10月9・10日に実施した航空機観測中の台風第19号の眼の中の風景など
2024年10月9・10日に実施した航空機観測中の台風第19号の眼の中の風景(右)。観測に使用した小型ジェット機(左上)、研究グループで開発・検証した投下型気象測器ドロップゾンデ(左下)(画像:名古屋大学プレスリリース「“台風の眼”に測器投下、取得データの高精度を実証」2024年10月24日より)
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