台風の眼にジェット機で飛び込む気象学者、「台風は空に浮かぶCD」と例えるワケ。「台風は進行方向の右側と左側、どちらが危険か」知ってる?
しかし台風の構造はこのような教科書に載っている通りのものだけではありません。
2022年に私たちがジェット機で眼に入って観測した台風14号は、ピンホールのような小さな眼をしていて、眼の中から見た壁雲はほとんど直立していました。測定器を壁雲に投入して風速を測ったところ、地表面から10㎞ぐらいまでの高度で強い風が吹いていたことがわかりました。
教科書に載っていることは自然のごく一部で、実際に観測してはじめてわかることがたくさんあります。台風は私たちが知っているよりもはるかに多様なのかもしれません。
台風の進行方向に向かって右側で強風に
さらに台風の暴風域が同心円状になるのは、台風が静止しているか、ゆっくり移動している場合です。台風が速く移動している場合は、移動速度が台風の回転する風に足し引きされ、暴風の分布は非対称になります。
つまり進行方向に向かって右側では、台風の回転する風と移動速度が足し算になることで強い風が吹き、左側ではこれらが引き算になって風が弱くなります。
2018年の台風21号では、北東に進む台風の右側の壁雲付近が関西国際空港の辺りを通過したので、毎秒50mを超える暴風が吹き、多数の船舶が走錨(そうびょう=いかりを降ろしているにもかかわらず船舶が移動してしまうこと)を起こして、そのうちのタンカー1隻が空港の連絡橋に衝突する事故が起こりました。
進路の右側100㎞程度までは非常に強い風が吹きましたが、左側ではほとんど暴風災害は起こっていません。このように移動する台風では、風速が左右で非対称になるのです。
私の実家は兵庫県の中ほどにあったのですが、小さいころ、台風が大阪側を通れば安心だが、岡山側を通ると危ないと父が話していたことを覚えています。
台風を研究するようになった今となっては、その理由がよくわかります。父のビニールハウスを吹き飛ばして破壊した台風は、どれも岡山側を通った台風で、兵庫県の実家はその右側だったのです。
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