台風の眼にジェット機で飛び込む気象学者、「台風は空に浮かぶCD」と例えるワケ。「台風は進行方向の右側と左側、どちらが危険か」知ってる?

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そして台風のエネルギー源は、海から大気に入る水蒸気ですので、表面積の約半分がエネルギー注入口となるわけです。このため海の温度がわずかに変わるだけでも、台風に入るエネルギーが大きく変わります。つまり台風の強さは海の温度に非常に敏感なのです。

水蒸気は物質としては水ですが、凝結して雲粒(うんりゅう=微小な水滴)になるとき、膨大な熱エネルギーを大気に放出します。これは熱エネルギーが水蒸気に潜んでいると解釈できます。このため気象学では水蒸気を熱と等価のものと考えて、熱エネルギー(潜熱)として扱います。

台風の下でどれくらいの熱エネルギーが水蒸気という形で海洋から大気に与えられるかというと、おおよそ6畳一間の部屋(約10㎡)ごとに家庭用ガスコンロ1台が最大火力で燃えているぐらいです。

大型の台風では強風域の直径が1000㎞以上ありますので、海面上に、およそ800億台のガスコンロが並んでいて、一斉に最大火力で燃えているようなものです。海から入る熱エネルギーがいかに大きなものか想像してもらえるかと思います。

それと同じだけの熱を海から奪うので、台風の下では海が冷やされます。一方で大気に入った熱エネルギーは水蒸気という形で潜みますので、その場で大気を暖めることはありません。ただ、大気下層を湿らせるだけです。

実際に台風の強風の中、海面近くを飛行機で飛ぶと、海面には大きな白波が立っていて、波しぶきとともに、まるで温泉の中のように靄(もや)が発生しているのがみえます。海上の大気は水蒸気でほぼ飽和していて、そこには多量の水蒸気が含まれているのです。

熱を水蒸気に潜ませるのが自然の巧みなところで、もしこの熱が直接大気下層を暖めるものだったら(冬の日本海はそのように北西風を加熱しています)、すぐに対流がたくさん発生して熱エネルギーを消費してしまうので、台風は発達しなかったでしょう。

海の熱エネルギーを隠し持つ水蒸気は、台風中心に向かう風によって眼の壁雲まで運ばれ、壁雲の中を上昇するときはじめて熱を放出して台風中心を暖めます。その加熱によって台風が発達するのです。

台風の上面はどうなっているのか?

これまでは台風の下面の話でしたが、もう一方の上面も台風の表面積のほぼ半分を占めていて、ここも熱エネルギーのやりとりにおいて重要です。

台風の上面は多少のでこぼこを除くとほとんど平坦で、CDの上面とよく似ています。眼の壁雲などでできた雲の多くは雨になって地上に落ちますが、一部は、地表面から高度10~16㎞にある対流圏上端付近に達して、台風中心から外に向かって広がります。

そのため台風上端は巻雲(けんうん)が広く覆っています。気象衛星から台風を観るとき、この巻雲の広がりが見えています。

夜でも気象衛星から台風が見えるのは、この巻雲が宇宙に向かって赤外線を出しているからです。これは巻雲が熱エネルギーを赤外線の形で宇宙に向かって放出して、台風を冷やしていることになります。

このように台風というのは、暖かい海に浮かんだCDのようなもので、下面から水蒸気を吸収し(エネルギー注入)、それを壁雲で凝結させて雲粒を作り(エネルギー変換)、その後、上面で熱を捨てて(排気)、発達していくと考えられます。

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