上場を視界に捉えた79歳起業家の商売哲学 食材卸サイト「Mマート」で消費者向け販売へ
業務用食材卸売市場サイトのMマート(村橋孝嶺社長)が10月、個人向け少量のネット卸事業を独特のビジネスモデルで本格開始し、新風を巻き起こしつつある。その真髄は、既存勢力に対するアンチテーゼと言える仕組みにある。
Mマートは食材卸業界では知る人ぞ知る企業である。現在、同サイトを通じて食材を仕入れているのは飲食業、ホテル、旅館、スーパーなど。買い手登録社数は13万社にものぼる。今も毎月600社以上のペースで増えている。
還暦を過ぎてからの起業
同社は数々の飲食業経営に携わってきた村橋孝嶺氏が2000年に創業した。1936年生まれの村橋氏は当時64歳。還暦を過ぎてからのネット事業立ち上げある。大学生の創業など若年層による起業が一般的なネットの世界では型破りだった。
なぜ、創業したのか。それは家庭の事情から高校を中退後、長年にわたる飲食業経営で得た「仕入れのむずかしさ」という実体験に基づいている。「たとえば米を街の業者に注文して配達してもらっても、品質が劣った商品になってしまっているという事態をいやというほど経験した。業者を変えようと電話帳で調べて連絡しても『最近、ウチはそちらの地域には配達していません』と断られた」。
そこで、村橋氏が目を付けたのがインターネットの中の食材卸サイトだった。さっそく、「サイトをみせてほしい」と連絡すると、「それには年間6万円の会員料が必要」と言われた村橋氏はその意味が理解できなかった。「食品スーパーに買い物に行っても、入り口で年間6万円の会費を払わないと中には入れないとは言わない」からだ。
「これはおかしい」と考えて村橋氏は「それならば、自分で卸売サイトをやってみる」ことを決断した。だが、当時、インターネットの知識は皆無に近かった。徹底的に専門書を読破して導き出したのは「情報の対称性こそインターネットの本質」ということだった。そこで、自社サイトでは商品の写真はもとより、価格、売り手の企業名、住所、電話番号、さらには担当者名まで公表。もちろん、会員料はなく、誰もが詳細まで見ることができるようにした。いってみれば、当時の「常識」に対するアンチテーゼのビジネスモデルだった。
「同業者からは、手の内をすべてさらし出すなど愚かだ。村橋はどうせ、失敗すると言われました」。だが、常識破りが成功したことは、今のMマートの業容をみれば明らかだ。
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