ところで、日本には、「一票の格差」がある。参議院議員(選挙区、09年)1人当たり選挙人名簿登録者数を見ると、東京、神奈川が100万人を超えているのに対して、製造業の比率が20%以上の県のうち山形、富山、長野、岐阜、福井、福島で50万人未満である。
首都圏で一票の価値が低いことは、サービス産業の声が政治に反映されにくいことを意味している。それに対して、一票の価値が低い地域で製造業の比率が意外に高いのだ。
「一票の格差」は、これまで、「都市地域対農村地域」の問題と考えられていた。その要素はいまでもあるが、「サービス産業対製造業」の問題でもあるのだ。今後地方都市で工場閉鎖の動きが進むと、さらにその傾向が強まるだろう。
製造業の縮小による雇用問題は、「経済的には望ましい方向が政治的な抵抗のために実現できず、経済的に必要なことと逆方向の政策が取られる」という意味で、経済問題というよりは、政治問題である。高度成長期の日本では、農業が政府の補助に依存する産業となった。これからは、製造業が政府補助に依存するようになる。雇用調整助成金、エコカー補助金、エコポイント、そして円安政策と、失業を顕在させないための政策がすでに行われている。
産業構造が転換するとき、失業者の増加は不可避だ。アメリカはこれを甘受しつつ産業構造を転換しつつある(ただし、オバマの政策に見られるような抵抗もある)。
日本では、政府の施策で失業率の上昇が抑えられている。しかし、これは必ずしも望ましいとはいえない。第一に、過剰人員を抱えたままでは、企業の利益は低迷を続けざるを得ない。第二に、雇用が守られるのはすでに雇用された人だ。これから雇用される人と、現在のシステムの外にいる人は守られない。実際、若年者の失業率は、9%程度と平均の2倍の高さだ。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2012年3月10日号)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら