すると、いつも決まって「社会が高齢化して、高齢者の数が増えること」だと、学生たちは言う。このように答える学生たちの声は暗い。高齢化の影響はつねにネガティブなものと考えられているようだ。AIと気候変動に関しては、よりよい未来を築くためにいまどのように対応するべきかをめぐり、詳細で丁寧な議論が熱心におこなわれる。
ところが、「高齢化社会」に関してはまったく議論が盛り上がらない。「高齢者の数が多くなる」というだけで話が終わってしまう。高齢者が増えることは悪材料であり、しかも対処する手立てがない、と決めつけているかのように見える。高齢化社会をめぐる議論は、際限なく膨れ上がる医療費、年金危機、認知症、介護施設の話題にとどまることがほとんどだ。
刺激的だったり、取り組み甲斐があったり、興味深かったりするテーマだとは、けっしてみなされない。変革や適応への意欲をかき立てられるというより、そこには受忍と諦念が見て取れる。そしてなにより、これはあくまでも高齢者に関わる問題であり、ビジネススクールで学ぶ学生たちの世代には関係ないと思われている。
AIやサステナビリティと同じくらい重要
本書では、個人のレベルでも社会のレベルでも、長寿化がAIやサステナビリティ(持続可能性)と同じくらい、私たちの未来にとって重要なテーマであることを示したい。そして、長寿化はこの2つの要素に負けず劣らず魅力的なテーマであり、未来の悪い結果を避けるためには、同じくらい抜本的な変化が不可欠であることを知ってもらいたい。
しかし、社会の長寿化というトレンドには、ほかの要素とは異なる特徴がある。長寿化は、私たちの周囲の世界を変えるだけでなく、私たちひとりひとりの人生そのものを根本から変える。このトレンドはなににも増して、あなたが自分の生きる人生に、そして人生の時間が増えるという現実に、どのように反応するかに関わるものなのだ。
そこで本書では、個人の視点と社会の視点の両方から論じる。社会が長寿化にどのように適応するべきかという議論を抜きにして、長くなる人生を個人がどのように生きるべきかを考えることはできない。エバーグリーン型への移行を成し遂げ、「高齢化社会」云々の言説を捨て去るためには、こうした点を理解することが不可欠だ。
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